英政府、中銀双方のスピード感ゼロの姿勢...市場は失望
第一生命経済研究所主席エコノミストの田中理氏は、2つのリポート「英トラス政権、嵐の船出~大型減税による国債増発で強烈な英資産売り~」(9月26日付)と「英市場混乱とBOEの緊急利上げ~財務省とBOEが声明発表も市場の動揺は収まらず~」(9月27日付)を立て続けに発表。その中でトラス政権の財政規律を度外視した大盤振る舞いの経済対策に、金融市場が激しく「ノー」を突きつけたとした。
「背景にあるのは、トラス新政権の経済政策運営に対する金融市場の不信感がある。エネルギー料金の凍結による物価高騰の抑制、大型減税と規制緩和による経済活性化、銀行のボーナスキャップ(金融マンの賞与に上限を設ける制度)廃止などは、1つ1つの政策としては金融市場に好感されて然るべきものだ。だが、歴史的なインフレに直面し、BOE(英イングランド銀行)が大幅利上げを続けるなかでの国債の大量増発に、金融市場は売りで反応した」
なぜ不信を抱いたのか。それは政策決定過程に見せたトラス新首相のいい加減さだった。
「トラス首相は保守党の党首選を通じてBOE批判や財務省批判を繰り返してきたほか、経済対策の発表に合わせて予算責任局(OBR=中立的立場から経済・財政に関する分析を行う独立財政機関)に借り入れ見通しの作成を求めず、自ら政策の信頼を損ねてしまった面もある。
トラス首相の意を汲むクワーテング財務相は9月25日、『金融市場の動向についてはコメントしない。経済成長と英国が魅力ある投資対象となることにフォーカスしている』と発言し、市場の不信感に油を注いだ」
この発言によって9月26日、英ポンドは一気に急落、一時対ドルに対して5%近くも下落した=図表1参照。主要通貨が為替介入もなしに1日でこれだけの幅で動くのは珍しく、「ポンド危機か」と欧米メディアは騒いだ。
あわてた英財務省とイングランド銀行は、別々に声明を出した。それぞれ11月に財務省は中期的な財政計画を発表、イングランド銀行は金融政策委員会(MPC)を開くとしたが、そのスピード感ゼロの姿勢に金融市場は失望した。
田中氏はこう結んでいる。
「緊急利上げなどの即時対応に期待していた金融市場の失望を誘った。(中略)市場センチメントを早期に改善する政策手段が見当たらないなか、11月の次回MPC(金融政策委員会)や中期財政計画を悠長に待っている余裕があるかは微妙なところだ。市場沈静化に向けて、BOEの緊急利上げを求める圧力が続く公算が大きい」