「双子の赤字」に悩む英国...市場は容赦なくアタック
こうした事態をエコノミストはどう見ているのか。
日本経済新聞オンライン版(9月27日付)「英中銀総裁『必要なら利上げためらわず』ポンド急落で」という記事に付くThink欄の「ひと口解説コーナー」で、ニッセイ基礎研究所研究理事の伊藤さゆりさんは、英国経済が抱える特殊事情を、
「通貨安が進むユーロや日本円との違いは、英国の経常収支が赤字基調にあることです。エネルギー価格等の高騰で、日本の経常収支黒字も減少、ユーロ圏は22年4?6月期にGDP比0.6%の赤字となったもの、英国の経常赤字は直近1?3月期で同8.3%と大規模」
と説明したうえで、
「それだけ多くの資本流入を必要とし、新興国のように資本流出による通貨安加速が生じやすい構造なのです。中銀の利上げは資本流出に歯止めをかける狙いがあるものの、国内の景気を冷やします。トラス政権の政策で光熱費や税負担が軽減されても、住宅ローン金利の負担増が勝ってしまっては元も子もないとの懸念の声も聞かれます」
とした。
同欄では、みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は、英政府と中央銀行の足並みの乱れを指摘した。
「市場の側からは、英政府とイングランド銀行は足並みが揃っておらず、景気を刺激してインフレ圧力を増す『財政拡張』と、景気を冷やしてインフレ圧力を沈静させようとする『金融引き締め』という逆方向の政策が、正面からぶつかり合っているように見える。経済政策の調整がうまく行っていないわけで、不信感や不安感からポンド相場は急落した。日本では、日銀の異次元緩和続行とドル売り円買い介入のかみ合わせの悪さが注目されることが多いが、英国のケースはそれよりもはるかに問題含み」
同欄では、日本経済新聞社特任編集委員の滝田洋一記者が、かつての英国発金融危機のケースと比較した。
「(1)英国は1976年にもポンド防衛に失敗して、IMFから融資を受けています(ポンド暴落による英国IMF危機)。今またインフレ抑制のための利上げのさなかに、トラス政権が大型財政政策を打ち出しました。ブレーキとアクセルを同時に踏む政策運営に、市場は拒絶反応を示したのです。
(2)英国は経常赤字と財政赤字の『双子の赤字』を抱え、対外純債務は拡大中。それだけに、市場は容赦なく英国の株式、債券、通貨をアタックします。(後略)」
こう説明後、結びに、
「(3)新政権はすでに市場から鼎の軽重を問われています。これで済むかといえば、そうは問屋は降ろさない。よもや再びIMFの出番に...」
と、英国IMF危機再来を示唆した。