ローソンが、100%子会社の高級食品スーパー「成城石井」(横浜市)を東京証券取引所に上場させる。
成城石井のプラーベートブランド(PB)商品をローソンで扱って売り上げアップを図るなどしたが、思ったような効果はなかった。成城石井は独自に成長させ、ローソンは保有株式の売却益を主力のコンビニ事業の成長投資などに振り向ける。
成城石井の直近3期の決算...売上高、当期利益ともに右肩上がり
ローソンが2022年9月9日、成城石井が東証上場を申請したと発表した。最上位市場である「プライム」への上場を想定しているとみられる。
成城石井は1927年創業で、現在、首都圏を中心に約200店舗を展開する。自社の工場で製造した総菜やPB商品に強みがあり、独自の直輸入ワインなど高品質な商品の評価も高く、近年は西日本にも出店している。
2020年2月期から22年2月期までの直近3期の決算を見ると、売上高はコロナ禍のなかでも937億円、1034億円、1092億円と順調に伸ばし、当期利益も53億円、65億円、73億円と増収増益を記録。ローソンの子会社の中では稼ぎ頭になっている。
成城石井とローソン...相乗効果、もうひとつ発揮できず
ローソンは2014年、親会社である三菱商事系の投資ファンド「丸の内キャピタル」から550億円(有利子負債を含む)で成城石井の全株式を取得して完全子会社化。成城石井自体の業容は、買収時点の約120店、売上高約600億円から着実に成長しており、ローソンとして、子会社経営という点では成功と評価できるだろう。
問題は最大のねらいである相乗効果だ。
むろん、ローソンの商品を成城石井で販売するという選択肢はなく、ローソンで成城石井のPB商品などを扱うということだ。
2018年には北海道や宮崎で商品棚の一角に「成城石井コーナー」を設け、菓子や加工食品、冷凍ピザを並べはじめ、そうした報道が注目され、期待されもした。成城石井の商品は単価が高いことから、ローソンの客単価のアップにつながるとの期待もあった。
ただ、結論としては、絵に描いた餅に終わった。ちょっと高いが価値のある商品を得意とする成城石井と、日常的な買い物が主のコンビニでは、客層が違ったということだろう。
各地の商業施設から引く手...成城石井上場にさらなる期待
小売業界全体の状況では、スーパーは再編の動きが活発化している。
三越伊勢丹ホールディングスは関東中心の高級スーパー「クイーンズ伊勢丹」を展開する「エムアイフードスタイル」を丸の内キャピタルから買い戻すと発表している。
関西でも、関西スーパーマーケットが21年12月、阪急・阪神百貨店などを運営するエイチ・ツー・オー(H2O)リテイリング傘下のイズミヤ、阪急オアシスと経営統合して関西フードマーケットとなった。
成城石井も、足元の業績好調で、各地の商業施設から出店のラブコールが絶えないというが、上場によりローソンの完全子会社という枠を外れることは、独自の新たな展開の可能性が広がりそうだ。
最大の強みである総菜の生産体制(現在は東京・町田など関東の「セントラルキッチン」で製造)をどうしていくかが課題になるが、その動向はスーパー業界の注目を集める。
ローソンが手にする売却益...自社株買い・償却が使途となる可能性は?
今回の上場では成城石井の時価総額は2000億円に達するともいわれる。
仮に、成城石井株の保有比率を半分程度に引き下げるとすると、単純に考えてローソンは税金を差し引いて数百億円の資金を手にすることになり、これをいかに使うかが問題だ。
コンビニは人口減少に伴う国内市場の縮小傾向で店舗が飽和状態に近づくなか、食品などに手を広げるドラッグストアなどとの競争は熾烈になる一方だ。
コンビニの苦境は、平均日販(1店舗・1日当たりの売り上げ)を見れば一目瞭然だ。
22年2月期は、各社頭打ちから漸減傾向なのは同じだが、ローソンは49.8万円と、最大手のセブン-イレブンの64.6万円に15万円近く水をあけられたままだ。ローソンの場合、成城石井を買収した当時の15年2月期の53.3万円からでも、大きく減らしている。
今回手にする資金を新商品や新サービスの開発、ブランド戦略に有効に使うことになるが、成城石井のPB商品の活用も奏功しなかった中で、販売を伸ばしていくのは容易ではない。
ローソンは2026年2月期の目標としてROE(自己資本利益率)15%の目標を掲げており、22年2月期実績6.6%から急激に伸ばす必要がある。
利益自体を積み上げて目標をクリアするのには限界があるとの見方も強く、「ROEの分母である自己資本を小さくするために、自社株買い・償却が成城石井株売却で得る資金の有力な使途になるのは間違いない」(大手紙経済部デスク)との声が出ている。(ジャーナリスト 済田経夫)