たった16枚で世界を驚かせた!日本発ボードゲーム「ラブレター」10周年...きっかけは、手作りで出展した「ゲームマーケット」だった【後編】/アークライト代表・福本皇祐さんに聞く

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   たった16枚のカードを使って、運、推理、駆け引きを駆使して、集まったみんなで盛り上がれるカードゲーム「ラブレター」をご存じですか?

   ボードゲームデザイナーのカナイセイジさんが手掛けた「ラブレター」は国内外で累計300万セット以上を売り上げ、世界を驚かせた日本発のボードゲームとしてファンが多いことでも知られている。

   そんな「ラブレター」が2022年、誕生から10周年を迎えた。このアニバーサリーイヤーを盛り上げようと、リニューアル版となる「ラブレター 第2版」が満を持して登場したほか、10周年記念の企画が続くなど、話題を集めている。

   「ラブレター」を見いだした一人が、発売元のアークライト代表・福本皇祐さんだ。後編では、ボードゲームの魅力、そして、10月に開催を控える国内最大規模のアナログゲームイベントでアークライトが主催する「ゲームマーケット2022秋」の見どころを福本さんに聞いた。

  • アークライト代表・福本皇祐さん
    アークライト代表・福本皇祐さん
  • アークライト代表・福本皇祐さん

ゲームをきっかけにしたコミュニケーションの広がりが一番の魅力

たった16枚で世界を驚かせた!日本発ボードゲーム「ラブレター」10周年...リニューアル&スペシャル版話題、人気の秘密は?【前編】/アークライト代表・福本皇祐さんに聞く>の続きです。

――前編では、「ラブレター」の話を中心にうかがってきました。ところで、「ラブレター」に限らず、ボードゲームをはじめとするアナログゲームの魅力を、福本さんはどう考えていますか。

福本皇祐さん「一番の魅力は、アナログゲームから派生するコミュニケーションにあると思っています」

――詳しく教えてください。

福本さん「ボードゲームって、人と一緒に遊んで、とくに誰かが教えてくれると、遊び方がよくわかるようになって楽しいし、面白かったらさらに誰かにススめたくなるものです。昔から私は、(いまはちょっと言いにくくなってしまいましたが......)アナログゲームは『接触感染型』だと表現しています。つまり、人が人に面白さを伝えて広まっていき、雪だるま式に人気が出るような。『ラブレター』もまさにそうだったと思います」
「ラブレター 第2版」。キャラクターが、顔にフォーカスしたものから上半身までのイラストに変更に。ルールブックもわかりやすくなった
「ラブレター 第2版」。キャラクターが、顔にフォーカスしたものから上半身までのイラストに変更に。ルールブックもわかりやすくなった
福本さん「また、アナログゲームは、勝ち負けにこだわらないで遊べるものもけっこうあります。勝ち負けがあるものでも、運の要素が大きかったりします。すると、たとえ負けたとしても、『あそこで勝てたんだけど』と、感想戦も楽しめる。そんなふうに、人とのコミュニケーションが広がっていくところが魅力です。だから、ボードゲームはコミュニケーションのためのツール、と言えるのかもしれません」

――そういう意味で、人と人の出会い、人とゲームの出合いの場となるのが、国内最大規模のアナログゲームイベント「ゲームマーケット」です。10月に控える2022年秋の見どころは?

福本さん「今回は、このままいけば、久しぶりに行動制限をともなわないイベント開催ができそうです。そこで、コロナ禍ではできなかった『試遊卓』が久しぶりに復活します。これは、クリエイターのみなさんがつくって、持ち寄られたゲームを置き、卓を囲んで遊んでもらう、というもの。これが、ゲームマーケットの最大の『売り』で、本来はそれを楽しみにお客さんも来場されるものでした。ぜひ、いろんな卓を回って、みんなでワイワイと、いろんなゲームを楽しんでほしいと思います」

――そのほかの施策は?

福本さん「いくつか、新たな試みも取り入れていきます。ひとつは、デジタルゲームのインディーズゲームイベント『ビットサミット』とのコラボです。会場では今回、『ビットサミット』から選りすぐりの作品を出展します。
実は私たちも、一足早く、8月に京都で行われた『ビットサミット』に参加させていただきました。あらためて気づいたのは、デジタルゲーム制作の活動をされている方のなかには、意外とボードゲーム好きが多いこと。ボードゲームをつくりたい、ボードゲームとクロスオーバーしたものをつくりたい、という人もいました。そんなこともあって、『ゲームマーケット』が、アナログとデジタルの融合と言いますか、ボードゲームの新しい遊び方を探るきっかけになったらいいなと思います」
福本さん「もうひとつ、実験的な試みとして、『ゲームマーケットチャレンジ』という施策を予定しています。これは、私たち運営側が『お題』を出すので、それに答えるゲームをつくって、発表してもらう試み。ひとつのテーマで、クリエイターがみんなで競作していくのです。会場の一角にスペースを設け、発表できるようにします。この試みが、どういうかたちで実を結ぶのか、私も楽しみにしています」

――もしかしたら、そのなかから「ラブレター」に匹敵する大ヒット作が生まれるかもしれませんね。

福本さん「そうなるといいですね。
そういえば、『ラブレター』も最初は、制作者のカナイセイジさんが『ゲームマーケット』の同人企画で、500円以下で制作する『500円ゲームズ』に出したのが最初でした。私自身、手製の茶色の封筒に、カナイさん手作りのカードが入っているのを見て、スゴく感動してね。あまりお金をかけられないから、コンポーネントリッチなボードゲームはつくれない。だから、いかに少ないカード、少ない要素で遊べるか――そう考えてつくられたのが『ラブレター』だったと思います」
2012年、「ラブレター」はカナイセイジさんの手作りで始まった
2012年、「ラブレター」はカナイセイジさんの手作りで始まった

――そんなエピソードがあるのですね。

福本さん「余談ついでに、2012年に登場した『ラブレター』はその後、ドイツ年間ゲーム大賞に推薦されるなど、欧米を中心とした世界で高く評価されました。しかも、『ラブレター』以前の日本のボードゲームがそこまで注目されていなかったのが、『日本のボードゲーム、おもしろいぞ』と見る目が変わっていったのです。そういう意味でも、『ラブレター』は日本発のボードゲームが海外へ飛躍していくきっかけ、トビラを開いた作品だった、と私は思います。
......というわけで、今回の『ゲームマーケットチャレンジ』も、『お題』を設けることで、いい作品が生まれるのではないかと楽しみにしています」

一人でできることには限りがある...一期一会を大事に

――そういった名作がつづくといいですね。アークライトのボードゲーム事業で今後、挑戦したいことはありますか?

福本さん「ボードゲーム事業のさらなる拡大を目指して考えているのは、海外での展開を充実させることです。日本のボードゲームの市場はまだ小さいので、規模の大きな世界市場で、日本の面白い作品を広められるよう、チャレンジしていきたいと思います。
日本のボードゲームに対しては、韓国、中国、台湾などアジア圏の関心が高い。たとえば、私たちが今春の『ゲームマーケット』で発表した『タイガー&ドラゴン』というタイトルは、発表の翌日にはもう、アジア圏の複数の会社から『ライセンスを取得したい』という問い合わせが届き、驚きました。一方、欧米に向けても、10月にドイツで開催される、世界最大のアナログゲームイベント『エッセンシュピール』に参加する予定です。そこで、欧米のメーカーと商談を進められたらと思っています」
「ゲームマーケット」の様子
「ゲームマーケット」の様子
福本さん「もうひとつやってみたいのは、まだアイデア段階ですが、『ゲームマーケット』出展者のみなさんをサポートする、デジタルのプラットフォームを整えられたら、と考えています。たとえば、出展者は『ゲームマーケット』の準備、広報や宣伝、アフターサービスなどをオールインワンで受けられるような......。
クリエイターのみなさんが力を入れてつくったボードゲームが、『ゲームマーケット』後もいろんなところに波及していくよう、私たちもお手伝いしたい。そういう仕組みを構築して、おもしろいボードゲームをもっと広めていきたいと考えています」

――ありがとうございます。インタビューの締めくくりとして、最後はちょっと角度を変えた質問をさせてください。J-CAST 会社ウォッチの読者層のボリュームゾーンが30代、40代です。この世代に向けて、キャリア/働き方へのアドバイスや、エールをおくるとしたら?

福本さん「一期一会を大事にしてほしい、ということでしょうか。アークライトは来年で25周年を迎えるのですが、いま取引をさせていただいている会社さんとは古い付き合いが多いです。それだけに、長くサポートしていただいているみなさんがいてこそ、会社のいまがあると実感しています。
やっぱり、一人でできることには限りがあります。
なによりも、いろんな味方やパートナーがいてこそ、仕事は広がっていくものです。一度仕事をご一緒して終わりになるのはもったいない。信頼関係をつくって、末永くパートナーとして付き合っていける仲間をいかに増やせるか――それは事業を成功させるうえでのポイントではないでしょうか。一期一会、私自身もそうですが、ぜひ大事にしたいものですね」

――ありがとうございました。



【プロフィール】
福本皇祐(ふくもと・こうすけ)

株式会社アークライト 代表取締役社長
http://www.arclight.co.jp/

1959年生まれ。大学卒業後、1985年ホビージャパンに入社して営業を担当する。1992年遊演体に入社後、同社の新規事業部門を任され、1998年に分社化してアークライトを設立。現在、アナログゲームの企画、開発、製造、出版、卸売り、イベント運営、店舗経営などを行うアナログゲームの総合メーカーとして多方面に事業を展開する。また、日本最大級のボードゲームイベント「ゲームマーケット」の運営も行い、ゲームを通して世界のヒューマンコミュニケーションの拡大を目指している。

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