「頼む、オフィスに戻ってきてくれ!」出社VS在宅勤務の「戦い」続く米国で、経営陣がすがる「ニンジン作戦」とは(井津川倫子)

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   9月初頭の「labor day」(レイバーデー)を境に、米国では「出社回帰」が始まったと報じられています。

   ウオール街の金融業界やシリコンバレーのIT企業経営者たちは「Back to the office」(出社せよ)と強気の発言を繰り返していましたが、在宅勤務のうまみを知った従業員たちをオフィスに戻すことに成功したのでしょうか?

   オフィス街に人が戻り、「ボスが勝った!」と報じるメディアがある一方、人手不足に悩む企業は「あの手この手」で従業員にアピールしている様子。いろんな「ニンジン」をぶら下げて「出社回帰」をねらっているようです。

  • 引き続き、出社するかどうか問題が話題に(写真はイメージ)
    引き続き、出社するかどうか問題が話題に(写真はイメージ)
  • 引き続き、出社するかどうか問題が話題に(写真はイメージ)

ワインとソファーを用意「お願いだから、オフィスに戻ってきてください!」

   米国では、新型コロナウイルスの流行期に在宅勤務をしていた従業員たちに対して、「出社再開」を求める動きが広がっています。

   ニューヨークタイムズ紙が「Office Drama」(オフィス劇場)と名付けたように、全米のオフィスで「出社派」の経営陣と「在宅勤務派」の従業員との間で、熱い「battle」(戦い)が繰り広げられているようです。

Bosses are winning the battle to get workers back to the office
(従業員をオフィスに戻す戦いは、ボス側が勝利している:米フォーブス)

   米メディア・フォーブスは早々と、「ボス側の勝ち」を宣言しました。空き部屋が減って警備会社が警備を再開するビルが増えたり、地下鉄の利用客が増えたり、といったデータから「オフィス街に人が戻ってきた」ことを「勝利」の理由に挙げていますが、はたして現実はどうなのでしょうか?

   ニューヨークタイムズ紙が指摘しているように、在宅勤務を通じてワークライフバランスのメリットに気づいた従業員の価値観を変えることは、かなりハードルが高いようです。ましてや、50万人以上がコロナ禍で職場を離れた米国では、慢性的な人手不足が社会問題になっているほど。必要な働き手を確保するために、経営陣が「あの手この手」で従業員をオフィスに戻す工夫をしている、という姿が現実のようです。

Companies are using carrots, not sticks, to get workers back to the office
(従業員を出社させるために、企業はムチではなくにんじんをぶら下げている:シカゴトリビューン紙)

   メディアでは、企業側が「解雇」や「警告」といった厳しい措置をちらつかせて「出社」を強いるのではなく、オフィスを魅力的な環境にして「従業員に戻ってきていただく」姿勢を打ち出している事例が多く紹介されています。

   とくに、打ち合わせスペースやカフェテリアを増やして、「オフィスは同僚とコミュニケーションを図る場所」とする企業が増えているそうです。共有スペースを増やす代わりに個々の机を減らして、「作業は在宅で、打ち合わせはオフィスで」と、それぞれの機能を明確するねらいだそうですが、たしかに、在宅勤務と出社を組み合わせる「ハイブリッド型」のメリットを最大に生かす「最適解」のように思えます。

   打ち合わせスペースでは、「sweets, fruits and good coffee」(甘いものやフルーツ、良質なコーヒー)が「定番メニュー」だそうですが、なかには豪華なソファーと「ワインやビール」を用意する企業もあるとのこと。

   満員電車や気の合わない上司といった「マイナス要因」を乗り越えて従業員に「出社」してもらうために、経営側の「戦い」は続くようです。

最近のトレンドは「ペットを連れてきてもよいオフィス」

   在宅勤務をしていた従業員が出社を再開するにあたり、ペットの同伴出勤を認める企業も増えてきました。とくに若者を中心に、在宅勤務中にペットを飼い始めたひとり暮らしの人が多いことから、「ペットを自宅において出社できない」という問題が発生していました。

   これに目を付けた企業が、「わが社なら、ペット同伴出社が可能です!」とアピールして評判を呼んでいるそうです。

   たとえばシカゴの保険会社では、月曜日と金曜日は「bring-your-dog-to-work days」(ペットを連れてきてよい日)と定めていて、ペットを飼っている人でも最低2日は出社できるように工夫しています。

   「ペットがいると、オフィスが家庭的な雰囲気になる」(同社幹部)といったメリットも紹介されていますが、同伴するペットは猫よりも犬が多いとのこと。猫は自宅でお留守番ができても、犬は難しいことが理由だそうです。

   こうしたペット同伴の動きは、人手不足に悩む小さな企業が積極的に取り入れていますが、アマゾンやグーグル、ネスレのような大企業も認めているそうです。オフィスで仕事をする足元で大型犬が気持ちよさそうに寝そべっている写真をみましたが、「ペット同伴」ブームはマイカー通勤が多いエリアから広がるのでしょうか...。満員電車で通勤する身からすると「別世界」のようです。

   それでは、「今週のニュースな英語」「carrot and stick」(飴と鞭)を使った表現をご紹介します。直訳すると「にんじんと棒」ですが、「飴と鞭」という意味の慣用句です。

The students need some carrot and stick
(学生には飴と鞭が必要だ)

My boss likes carrot-and-stick approach
(私の上司は、「飴と鞭」手法をよく使う)

Biden brings carrot-and-stick diplomacy to UN
(バイデン大統領は国連で「飴と鞭」外交を展開している)

   ニューヨークタイムズ紙によると、「生産性の低下」を理由に出社を促している経営陣が多いものの、ホンネのところは「家賃がもったいないから」だとか。

   10年以上の長期契約の物件が多く、「家賃を無駄に払うくらいならワインやスイーツはお安いもの」なのでしょうか。コンビニランチが定番化している私としては、うらやましい限りです。

(井津川倫子)

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井津川倫子(いつかわりんこ)
津田塾大学卒。日本企業に勤める現役サラリーウーマン。TOEIC(R)L&Rの最高スコア975点。海外駐在員として赴任したロンドンでは、イギリス式の英語学習法を体験。モットーは、「いくつになっても英語は上達できる」。英国BBC放送などの海外メディアから「使える英語」を拾うのが得意。教科書では学べないリアルな英語のおもしろさを伝えている。
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