上場企業の財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、ビジネス領域に特化した日本最大級のナレッジシェアプラットフォームを運営し、世界一を目指して成長を続けるビザスクです。
ビザスクは、ゴールドマン・サックス証券や日本ロレアルなどを歴任した端羽英子(はしば・えいこ)氏が2012年に設立。翌2013年には、ビジネス知見を提供する個人(=アドバイザー)と顧客企業とをマッチングする「ビザスク」をリリース。2020年には東証マザーズに上場を果たし、現在はグロース市場に移行しています。
「小が大を買う買収」で話題に
それではまず、ビザスクの近年の業績の推移を見てみましょう。
ビザスクの営業収益はここ数期、急速に右肩上がりで伸びています。2022年2月期には、3期前の6倍となる37億円もの営業収益をあげました。
この理由は同社の業績好調に加え、2021年11月に米Coleman Research Group, Inc.を買収したことも関係しています。第4四半期連結累計期間(2021年10月から同12月までに3か月間)において、コールマン社の損益計算書を連結しているからです。
コールマン社は、米国を中心にENS(Expert Network Service)を展開する大手で、登録アドバイザー数26万人超はビザスクの16万人超を大きく上回ります。取扱高は65億1300万円、営業収益は47億1000万円、営業利益は11億5700万円で、「小が大を買う買収」になりました。
2022年2月期に営業損失が出ているのも、一時的なM&A関連費用として営業費用に6億8800万円(営業外費用に2億6100万円)を計上しているためです。買収総額は約1億200万ドルで、「買収先の事業規模は自社の2倍以上」「買収金額は売上高の7倍」などと経済メディアで話題になっています。
2023年2月期の連結業績予想は、営業収益が前期比135%増の87億円、のれん等償却前営業利益が10億円、営業利益は2億6000万円となる見込みです。この規模はグローバルENSプレイヤーランキングの第6位あたりに位置します。
ビジネス知見を持つアドバイザーへのインタビューをお膳立て
ビザスクは「知見プラットフォーム事業」の単一セグメントですが、2022年2月期の通期決算説明資料では、コアサービスの「ビザスク interview」と「新プロダクト群」(ビザスク lite、ビザスク project、ビザスク expert survey、ビザスク partner他)に分けています。
ビザスク interviewは「フルサポート形式スポットコンサル」で、ビジネス知見を有するアドバイザーに対し、必要なときに聞きたいことを手軽にヒアリング・相談できる1時間単位のインタビューを、ビザスクが設営します。投資・事業機会の評価や、ベストプラクティスの評価などに活用されます。
新プロダクト群は、ビザスクが抱えるエキスパートを活用したサービス。たとえば「ビザスクlite」は、顧客がアドバイザーを自分で検索・募集する「セルフマッチング形式」のサービス。「ビザスク expert survey」は、オンライン・アンケート形式で多数のアドバイザーの知見を一度に収集することをサポートするサービス。「ビザスク partner」は、アドバイザーが課題やニーズに応じて一定期間を伴走支援するサービスです。
2022年2月期の取扱高41億7100万円のうち、「ビザスク interview」は29億2700万円で70.2%を占め、「新プロダクト群」は12億4400万円で29.8%を占めています。
「ビザスク interview」のKPIは「法人クライアント口座数」×「1口座あたりビザスク interview取扱高」です。1口座あたりの取扱高は、2019年2月期より250~270万円前後と横ばいですが、2022年2月期の法人クライアント口座数は前期比53.9%増の1131件と大きく伸びています。
口座数の増加について、同資料では「マーケティングと営業体制への投資」によるものとしており、今後も積極的に広告宣伝費を投入するとしています。
なお、2022年2月期の主要な顧客はボストン・コンサルティング・グループで、4億371万円の営業収益をここからあげています。
平均年齢30歳、平均年収505万円
ビザスクの2022年2月期末の従業員数は単体168人、連結416人。単体従業員数は2019年12月末の88人の2倍近くに増えました。連結従業員数は、2021年2月期末の144人から大幅増。これは、買収に伴う増加が大きく影響していると見られます。
ビザスクの平均年間給与(単体)は、2022年2月期は505.1万円と初めて500万円台に。平均年齢30.8歳、平均勤続年数2.1年で、平均年齢が若返っているのは若手社員の採用が進んでいるためと見られます。
なお、2022年2月期の有価証券報告書によると、社外取締役を除く取締役3人に支払われた報酬等の総額は4,200万円とのこと。
ビザスクの採用サイトによると、インターン、新卒採用のほか、営業・コンサルティング系職種、リサーチ系職種、経営企画系職種、管理系職種、開発職(Webエンジニア、UI/UXデザイナーなど)の職種で中途採用が募集されています。
ちなみに、転職サイトを見ると、コンサルティング営業の予定年収は400~700万円。「事業場外みなし労働時間制」で、固定残業時間が月45時間設定されているとのことでした。
国内で競合なし、グローバルでも独自の位置に!
ビザスクは、国内にめぼしい競合がいないユニークなビジネスを展開しています。一方で、米国にはENS(Expert Network Service)を展開する会社はいくつかありますが、日本のユーザーは事業会社が多く、米国では機関投資家の市場が大きいという違いがあるようです。
日米をクロスした会社はグローバルにもなく、コールマン社にとっても差別化要因になるM&Aとなったようです。これが業績の成長にどこまでつながるか、注目されます。
ビザスクの株価は、2021年8月18日にコールマン社の買収発表後に上昇し、2021年9月28日に7120円の上場来高値を記録しました。しかし買収を完了した2021年11月1日以降は下落傾向となり、現在では2000円前後で推移しています。
(こたつ経営研究所)