稲盛和夫氏の言葉「経営者は自身の愛情がどこに向いているのか...常に自問自答」
そうは言っても、誰もがそうではありません。
たとえば先日亡くなられた京セラの創業者、稲盛和夫氏は、一代で京セラを大企業に育て上げると、スマートに後継に席を譲りました。また、第二電電(DDI/現・KDDI)では陰の存在として事業を成功軌道に乗せ、破綻した日本航空では会長としてV字回復させるとあっさりとその職を辞しました。
私は15年ほど前に、氏の企業経営に関する講演を聞いたことがあります。フィロソフィ経営やアメーバ組織などの経営ノウハウもさることながら、その根底にあるものとしてお客様に対しても、会社に対しても、従業員に対しても、愛情あふれる経営者であり続けているという事実に感銘をうけました。
結論として、経営者は自身の愛情がどこに向いているのか、自分にばかり向いてはいないかを常に自問自答し、「利己」にならないように注意するのが肝要である――こういう趣旨のお話を聞かせていただいと記憶しています。
そこにあるのは、まさしく「利他の精神」です。この「利他の精神」があってはじめて、自身が作り上げた京セラで早期に後継者に道を譲って、大きな気持ちでその行く末を見守ることができたのでしょう。DDIでも日本航空でも、必要以上に自己顕示し過ぎない姿勢を貫けたのでしょう。
稲盛氏に倣って申し上げるならば、永守氏はじめ多くの創業オーナートップは、「利他」よりも「利己」に陥ってしまうがゆえに後継問題が先に進まないのではないか、と思うのです。
いやむしろ後継問題に限らず、企業経営のあらゆる場面でうまくいくはずの物事がうまくいかない場合には、経営者の「利己の精神」が邪魔しているのかもしれません。「利他の精神」はすべての経営者が意識すべき、経営の心であるように思います。
(大関暁夫)