「フューチャー・バック思考」を浸透させる仕組み
また、本書では、経営陣と組織に、フューチャー・バック思考を浸透させる仕組みにも触れている。
ジョンソン・エンド・ジョンソンの「企業リーダー促進プログラム」は、グローバルなリーダー候補として推薦された上席副社長を対象にした8か月のプログラムだ。ユニークなのは、仕事以外のことに大幅な時間が割かれていることだ。
ある年は、「疾患のない世界」構想を事業化するアイデアを出す課題が出されたという。彼らは少人数のチームにわかれて世界中に派遣され、各国の保健当局、病院の経営者、医師、患者たちと会った。その後、事業計画を発表したあと、何人かは資金提供を受けたそうだ。
本書は理論を展開するだけでなく、上述のジョンソン・エンド・ジョンソンのほか、アップルやネスレなどの例を取り上げているので、説得力がある。
著者は、「大企業はこれまで以上に短命になった」と最後に書いている。
「S&P500種指数」に採用される銘柄の平均採用期間は、1958年には33年間だったが、2016年には24年間と短くなり、2027年には12年間にまで短縮されると見込まれているという。
その理由は、買収、合併される企業のほか、成長が止まって時価総額が減り、ベンチマークとされる指数の要件を満たせなくなる企業が出てくるからだ。
それだけに、新たな成長を続けるためには、学び続ける組織であることが重要だ。企業の寿命は思ったよりも短い――そのことを痛感させられた。
(渡辺淳悦)
「フューチャー・バック思考」
マーク・ジョンソン、ジョシュ・サスケウィッツ著 福井久美子訳
実務教育出版
2200円(税込)