ビジョンを明確な戦略に転換するには?
本書では、ジョンソン・エンド・ジョンソンの医薬品部門であるヤンセンファーマ(ヤンセン)の研究開発のグローバルヘッドだったウィリアム・N・ハイト博士を例に、ビジョンを描くことの大切さを説明している。ヤンセンが掲げたビジョンは、「疾患のない世界」というものだった。
では、ビジョンを明確な戦略に転換するには、どうしたらいいか。
最初は、「未来像のポートフォリオ」を作ることから始める。具体的に、成長ギャップの大きさを数量化したら、それを3つか4つで割ったあと、中核事業以外の主要な成長領域(戦略的機会領域)を3つか4つ作ることを勧めている。1つか2つでは、どれも結果が出ない可能性もあり、リスクが高すぎるからだ。
次のステップでは、未来を起点に現在まで逆算して、中期目標を設定する。最後に、イノベーションのポートフォリオと投資のポートフォリオを作る。
ヤンセンのハイト博士の場合は、ジョンソン・エンド・ジョンソンの研究開発部門の役員を引き抜き、責任者にした。小さな専門組織を立ち上げ、すばやく意思決定ができるようにした。彼らは、肺がん、大腸がん、1型糖尿病の3つをターゲットに据えた。
2018年にジョンソン・エンド・ジョンソンは、「肺がんイニシアチブ」プロジェクトを立ち上げた。そして、シリコンバレーのスタートアップ企業、オーリス・ヘルスを買収した。
最初の気管支炎手術ロボットを発売した会社で、そのロボット技術を使えば、「肺専用の内視鏡」で生体組織検査が必要そうな組織を簡単に見つけることができる。
本書では、こうした戦略的な買収や提携関係を「アンカー」と呼んでいる。すぐれたアンカーは、中核事業に確たる利益と信用をもたらし、新規事業に懐疑的な人たちに付け入る隙を与えない、と書いている。