イノベーションに失敗した企業は消えていく運命にある......。
本書「フューチャー・バック思考」(実務教育出版)は、希望的観測を戒め、未来に起点を置いた経営によって、危機を乗り越えようというビジネス手法を説いた本である。
「フューチャー・バック思考」(マーク・ジョンソン、ジョシュ・サスケウィッツ著 福井久美子訳)実務教育出版
著者のマーク・ジョンソン氏はハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授と共同で、戦略とイノベーション・マネジメントのコンサルティング会社「イノサイト」を設立。共著者のジョシュ・サスケウィッツ氏は同社のパートナーを務めている。
クライアントにはプロクター・アンド・ギャンブル、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどの大企業が多い。だが、共働したチームには、すばらしいアイデアがたくさんあり、刷新的な事業になる可能性があったにもかかわらず、成長できずに終わったものも少なくなかったという。
いったい、どういうことだろう?
既存ビジネスへの執着が招く失敗
原因の1つは、「プレゼント・フォワードの思考の誤信」によるものだ。既存のビジネスを改善し続ければ、そのビジネスの「寿命」をいつまでも延ばすことができるという魅惑的な考え方だ。
だが、市場が変化したとき、顧客の嗜好が変わったとき、あるいは新技術が現れたとき、プレゼント・フォワード思考でしか考えられないリーダーは、不意打ちをくらう。目の前の問題を解決するのに追われて、水面下で進行していた大きな問題に、まったく備えていないからだ。
そこで必要となるのが、フューチャー・バック思考だ。プロセスは、以下の3つのフェーズからなる。
フェーズ1 実行可能で刺激的なビジョンを描く
フェーズ2 ビジョンを明確な戦略に転換する
フェーズ3 戦略を実施する準備をして、その実行を管理する
ビジョンを描くためには、「あなたの業界に、転換点となる可能性を秘めたものはないだろうか。それを見つけ出して、いつ起きそうかに注目しよう」とヒントを与えている。
たとえば、自動車業界では、自動運転車が2030年頃に、電力業界ではグリッドスケール蓄電池が2030年頃に無視できない存在になるだろう、と予測している。