押しつけ、型にはめる指導では限界...プロ野球の名コーチは「教えない」

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経験則による指導は通用しなくなる時代に

   オリックスで投手コーチ、現在は育成コーチを務める平井正史さんも、選手が自主的に動けるよう、促してあげたほうが覚えは早い、と話す。

   現役時代の平井さんは、落合博満監督が率いた「黄金時代」の中日のメンバーだ。当時のブルペンでは、コーチの役割を選手が果たしていたという。選手間で投手起用のタイミングがわかっていたというのだ。

   もっとも、そういう流れをつくっていたのが、投手コーチでブルペン担当の近藤真市さんとベンチコーチだった森繫和さんの信頼関係だった、と証言する。

   著者は最後に、コーチ研修をしている球団もあるが、どれだけの球団が行っているか、と問題提起している。指導者のライセンスが存在しない野球界では、自分の経験を押しつけるコーチも未だに少なくないと見ている。

   近年、高精度の測定器によって得られたデータを分析するアナリストの存在が注目されている。アナリストとコーチの連携が必要不可欠になり、「経験則による指導はますます通用しなくなることだろう」と結んでいる。

   ひるがえって、ビジネスの世界はどうか。「営業はこうやるんだ」と自分の経験を押しつける先輩や上司の顔が浮かんでくる人もいるのでは。

   純粋に野球を見るうえでも、豊富なエピソードが紹介されており、楽しめる一冊だ。

(渡辺淳悦)

「『名コーチ』は教えない」
高橋安幸著
集英社新書
902円(税込)

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