押しつけ、型にはめる指導では限界...プロ野球の名コーチは「教えない」

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   大谷翔平選手や佐々木朗希選手など、野球界にはかつての常識を覆すような才能が次々と現れている。彼らを成長に導くのは、従来のコーチング論とは一線を画した、新しい指導スタイルだ。

   本書「『名コーチ』は教えない」(集英社新書)は、優れた職能を認められたプロ野球の現役指導者6人に取材したものだ。その実践は、野球界のみならず、ビジネスの世界でも、若い世代を「指導」「教育」する立場の職務に有効なヒントを与えてくれそうだ。

「『名コーチ』は教えない」(高橋安幸著)集英社新書

   著者の高橋安幸さんは、1965年生まれのベースボールライター。出版社勤務を経てフリーランスに。雑誌「野球小僧」(現・「野球太郎」)の創刊に参加。昭和から平成にかけてのプロ野球をテーマに取材、執筆を続けてきた。著書に「増補改訂版 伝説のプロ野球選手に会いに行く 球界黎明編」「根本陸夫伝 プロ野球のすべてを知っていた男」などがある。

失敗を生かして、成功に近づく

   高橋さんが「野球人」に取材した話を総合すると、プロ野球のコーチはおよそ次の3つのタイプに分類されるという。

1 幹部候補生
2 縁故採用
3 職能を認められた人

   1は球団が監督候補と見込んでいる人材だ。現場の最高指揮官への昇格に向け、指導者経験を積ませるために、コーチに就任させる。2022年の12球団の監督のうち、前年に日本一になったヤクルトの高津臣吾監督をはじめ8人が該当する。中日の立浪和義監督ら4人は、専任のコーチ経験なしに監督に就任した。

   2は「世渡りがうまくできる」コーチで、所属球団で自分の首が危うくなると、延命のため他球団での採用を根回しする人もいるという。引退後にそのまま球団に残って就任するケースが多いが、そこから勉強して、「仕事ができるコーチ」になり変わる人もいるそうだ。

   3が本書で取り上げたコーチの類型だ。職能が評価され、いろいろなチームから声がかかる人も少なくない。

   第1章に登場する石井琢朗さんもその1人だ。

   横浜(現・横浜DeNA)の1998年のリーグ優勝に1番打者として貢献。2008年広島に移籍して、2012年引退。その後、広島、東京ヤクルト、巨人、22年から横浜DeNAでコーチを歴任している。

   打撃コーチとしての哲学をこう語っている。

「漠然と打率3割という100点を目指さないでほしい。3割だけで1点を取りにいくんじゃなくて、残りの7割の失敗も生かしてプラスして、10割を使って攻撃してほしい。ひとつの凡打、失敗でも、いかにランナーを進めるか、得点にするか、というところから考えなさい」

   「失敗も生かして、10割を使って、成功に近づく」という考え方は、ビジネスにおいても当てはまりそうだ、と高橋さんは書いている。

   石井さんは現役最後の4年間広島にいたことが勉強になったという。ずっと横浜にいてコーチになっていたら、プライドが強すぎて、「自分はこうやってきたんだから」と選手に押しつけ、型にはめるような指導をしていたかも、と振り返っている。

   「よく、誰々を育てたっていうコーチの話がありますけど、逆に僕が選手に育てられたと思っているんです」とも。

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