日本航空の再建でも手腕を発揮
日本航空の再建でも、部門別、路線別、路便別にリアルタイムで採算がわかる仕組みを導入した。その数字をベースに「業績報告会」を開き、全社員が採算意識を高め、収益性向上に貢献しているという。
高収益によって「事業展開の選択肢」が広がる。京セラの場合も、ファインセラミックスだけでは会社の将来に限界があると考え、切削工具や再結晶宝石、人工歯根、太陽電池といった異分野や異業種へ参入した。それも、高収益による潤沢な資金と豊かな財務体質があったから実現した、と説明する。
第二電電の創業時、京セラには内部留保が1500億円あり、「1000億円までは使わせてほしい」と役員会で語ったという。高収益を通じた備えがあったからこそ、電気通信事業に参入できたのだ。
日本航空のエピソードは(7)にも登場する。この時、稲盛さんは80歳を超えていたが、1週間のほとんどを東京のホテル住まいで過ごし、昼はサバの塩焼き弁当、夜はコンビニのおにぎりで済ませながら、朝から晩まで続く会議で、細かな経営数字に集中したそうだ。そんな姿を見て、日本航空の社員たちは、事業再生計画に向けた強い意志を感じたはずだ、と書いている。
「経営12カ条」の根底には、「人間の思いは必ず実現する」という思想があるという。また、リーダーの心得として、謙虚にして驕らず、生きていることに感謝する、善行、利他行を積むなどを挙げている。
実際の経営から生み出されたシンプルな教えは、道徳的な規範を含みながら、どれも前向きで実践的である。
稲盛さんはこの他にも多くの著書を出し、貴重な言葉を残している。今後、ますます読み継がれることだろう。
(渡辺淳悦)
「経営12カ条」
稲盛和夫著
日本経済新聞出版
1870円(税込)