ロシアのウクライナ侵攻を契機として、サプライチェーンが世界的に逼迫・弱体化し、エネルギーおよび資材価格、食糧価格の高騰を招いています。
この消費者物価の急激な上昇を抑制するため、西側各国は相次いで、金融引き締め政策=金利の引き上げを実施しています。
しかし、日本はこれまでのところ、独自の金融緩和政策を維持し続けることを決めており(公開されている日銀の金融政策決定会合の議事録を読めば明らかです)、欧米各国と日本の政策金利差が拡大することで、円安が進行しています。
円安にともない、エネルギー・原材料費などのコストアップによる新築住宅価格の上昇も気になるところです。そんななか、住宅購入を考える場合、どうしたら賢い選択ができるのでしょうか。
新築も中古も値上がりほぼ確実...賢く選択する工夫とは?
<円安が進んだら、住宅価格は上がるのか? 値上がりに対抗する「戦略的手段」とは...専門家が解説【1】(中山登志朗)>の続きです。
前編では新築住宅の価格について考察しましたが、では、中古住宅の価格はどのように推移する可能性があるのでしょうか。
前編で示したように、新築住宅の価格がコストアップによって上昇すれば、一部の住宅購入ニーズは中古住宅に向かいます。また、どうしても新築住宅が欲しいというユーザーは、住宅地価が相対的に低い都市圏の準近郊&郊外エリアでの購入を検討する可能性も高まります。
ニーズが中古住宅に向くと、現状ではコロナ禍でとくに供給サイド=売り物件の戸数がコロナ前の水準には回復していないため、需給バランスがタイトになって価格は上昇します。現状でも都市圏の市街地中心部などでは、中古住宅の価格が前年比で10%、もしくはそれを上回って上昇しているエリアがあります。
ですから、新築住宅の価格動向が中古住宅にも波及し、今後も連動して値上がりする方向で推移すると見ておくべきでしょう。ただし、都市圏準郊外や地方圏では、需給バランスがタイトな状況ではないので、急速に値上がりすると可能性は低いと見られます。
したがって、住宅購入を急がないユーザーは状況を冷静に判断することが求められます。また、買い替えを検討しているユーザーは、買い替えではなく、リフォームやリノベーションによって居住快適性を高めるなどの方向で考え直すというのも、生活防衛策としては有効な手段です。
「住宅ローン金利」の歴史的低水準&「住宅ローン減税」の実質的な拡充、という朗報
このように、今後の住宅価格はウクライナ侵攻が長期化し、また円安基調が継続するほど、上昇する可能性が高まります。
ただし、この状況を補って余りあるのが、「住宅ローン金利」の歴史的低水準と、「住宅ローン減税」の実質的な拡充です。
とくに、「住宅ローンの変動金利」での借り入れは、2022年9月現在で0.310%という商品があり、他にも条件次第で0.3%台で借り入れ可能なものが多数揃っています。ですから、極めて低利&借り手有利な状況にあると言えます(「固定金利」は、「長期金利」がやや上昇基調で推移しているので、連動して若干上昇しています)。
さらに、2022年に改定された「住宅ローン減税」制度は、控除率が一律0.7%に引き下げられたものの、新築住宅に限って控除期間が13年(中古住宅は10年)に正式延長されています。
そして、長期優良住宅や低炭素住宅など、とくに断熱性や耐震性の高い住宅については、元本の上限が5000万円、ZEH住宅は4500万円、省エネ基準適合住宅は4000万円にそれぞれ設定されています。これら住宅性能の高い住宅以外の一般住宅は、上限が3000万円に引き下げられていますから、住宅性能の違いによって歴然とした格差が設けられたことがわかります。
ただし、この元本の上限引き上げは2023年末まで。2024年以降は、元本の上限がそれぞれ500~1000万円も引き下げられてしまいますので、ご注意ください。
とくに、住宅性能の高くない一般住宅は、2024年以降、元本が2000万円に引き下げられるだけでなく、控除期間も13年から10年に短縮されます。つまり、一般住宅は新築であっても、税制上は「中古住宅扱い」となってしまうのです。
なお、中古住宅でも、長期優良住宅であれば、元本の上限は3000万円となっています。ですから、一般住宅よりも控除額は大きくなりますが、控除期間が10年と短いので「お得感」は新築住宅のほうが強くなります。
◆いま、最も賢い選択はコレ!
断熱や耐震性能の高い住宅は、購入時のイニシャルコストは相応に高いですが、メンテナンス費用や光熱費などのランニングコストは一般住宅と比較すると大きく削減できるというメリットがあります。
つまり、イニシャルコストとランニングコストが「トレード・オフ」の関係にあると考えれば、住宅ローン控除の優遇措置を上手に活用する。そうすると、住宅価格の値上がりに対して、低金利の住宅ローンと低ランニングコストを「武器」として、戦略的に断熱性(省エネ性)・耐震性の高い住宅を購入するというのが、いま、最も賢い選択といえるのではないでしょうか。
(中山登志朗)