仲介業者なしに事業継承は難しい!
第3章では日本のM&A業界を代表する4氏が、「日本のM&Aの現状と未来」について座談会形式で語り合っている。その中から、印象に残った発言を引用し、その意図を説明しよう。
渡辺章博氏(GCA創業者) 「松下電器は、M&Aで成長した会社と言って過言ではありません」。銀行が仲介し、体力の弱った会社を経営力のある会社が立て直すのが、唯一国内にあったM&Aのマーケットだったという。
中村悟氏(M&Aキャピタルパートナーズ代表取締役社長) 「事業継承の現場から見ると片側FA(ファイナンシャルアドバイザー)は難しいと思います。事業継承の場合、トータルで100回を超えるぐらい売り手と買い手双方の調整をしながらクロージングにもっていきます」
中小企業庁は、2021年8月にM&A支援機関に係る登録制度をつくった。2253者の登録があり、内訳は仲介専門業者が539者、FA専門業者が391者、税理士が505者、公認会計士が231者、地域金融機関が125者となっている。想像以上の事業者が中小M&A支援に携わっていることがわかる。
中村氏は「手数料両取り」という批判を招致したうえで、仲介を禁止したときに誰が事業継承を担えるのか、と疑問を呈している。
三宅卓氏(日本M&Aセンターホールディングス代表取締役社長) 「買い手も売り手も上場企業であれば、事業シナジーや財務デューデリジェンスの結果だけで判断する闘いになります。ところが、中小企業のオーナーとの闘いは異次元の世界で行われる空中戦のようなもの。どうやっても噛み合わないので翻訳者や調整者が必要になるのです。だからこそ、仲介がうまくいくのですね」
中小企業は財務会計の文化がなく、ほぼ税務会計で減価償却を行っていない企業もあるそうだ。議事録や株主名簿も不完全で、これを大企業が検討できるまで整えることが求められるという。
荒井邦彦氏(ストライク代表取締役社長) 「M&Aビジネスは、ハイエンドビジネスあるいはビジネスの総合格闘技だといつも社内では言っています」
営業力、ビジネス構想力、財務、法務などの幅広い知識が求めれられるという。最高のビジネスパーソンになりたいと思っている人たちが参入し、日本のM&Aのレベルが上がることによって、日本の経済が活性化する、と呼び掛けている。
2025年には経営者の6割が70歳を超え、多くの中小企業が後継者不在のため廃業して、約650万人の雇用が失われるという分析がある。M&Aが日本再生の切り札になるかもしれない。
(渡辺淳悦)
「日本のM&Aの歴史と未来」
一般社団法人金融財政事情研究会編著
3300円(税込)