「預金の仕組みを整えるのが先か? 融資の仕組みを整えるのが先か?」
そのため、不動産担保だけが融資の審査の判断基準で、融資の期間は最大で1年。なぜなら、預金の期間が最長で1年だからだ。
「1年しか預からないお金を、5年、10年と別の事業者に貸し出せるわけがない。そんなことをしたら、銀行が資金ショートを起こしてしまう。預金の仕組みを整えるのが先か? 融資の仕組みを整えるのが先か? これはもはや卵と鶏の世界である」
そんな途方もないところからのスタートだった。
財務副大臣に会い、日本でも定着している「信用保証付き融資制度」のようなものを整備したい、とノートを読み上げ説明した。すると、2015年11月の総選挙までに、信用保証制度をつくってほしい、とリクエストされた。期限付きで「丸投げ」されたのだ。
2014年1月に、「ミャンマー中小企業融資推進アドバイザー」に任命され、ヤンゴンに赴任した。
ここで、財務副大臣が「力技」を発揮。自身が所管する財務省管轄下の国営保険庁から、融資保険を保険商品の1つとしてリリースさせる形で進めることになった。だが、銀行からの問い合わせはなかった。
泉さんが立案したのは、返済が不能になった場合、その残債額の60%を保険庁が銀行へ支払うという仕組みだったが、ミャンマーの銀行は100%の返済を求めたからだ。
どうしたらよいものか――。そこで、日本の財務省幹部のアドバイスを受け、商品変更を提案した。
貸出先が倒産したり回収不能となったりした場合、不動産などの物的担保が残高の40%以上をカバーできていれば、残りを保険庁が補填するので、銀行には損失が出ない仕組みに変えたのだった。
そして、工業省が主催するセミナーに参加すると発行される「中小企業メンバーカード」を保有することが、融資保険の申し込み用件になる。
この時、泉さんは毎週、セミナーの講師を務めた。さらに、泉さんは全国を行脚し、信用保証付き融資の利用者は少しずつ増え、2017年7月には100件を超えた。本書にも、托鉢用お椀製造業者、金箔製造業者、ござの製造業者など、利用者の写真が載っている。本当に零細な業者が利用したことがわかる。
次に、日本の信用保証制度を参考に、ミャンマー信用保証協会法のドラフトをつくり、法案は成立した。取り扱い銀行も10行に拡大し、2019年2月には、利用事業者数は1000社を突破した。そのうち、800社は自ら足を運び、事業者と面談したという。