「抜かずの宝刀」のまま、円安けん制を続けたほうがいい
為替介入の効果がほとんどないのだから「抜かずの宝刀」のままでいたほうがよい、と主張するのは野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏のリポート「円安阻止の単独為替介入の効果は限定的」(9月14日付)のなかで、米国の協力を得られず、単独介入になるもう1つの理由をこう説明する。
「多くの国が自国通貨安による物価高を警戒するなか、米国が日本にだけ特別に為替介入を認めるとは考えにくいところだ。そうなれば、他国にも為替介入の動きが広がり、通貨切り上げ競争に発展してしまう恐れがある」
そして、単独介入は日本の外貨準備に限りがあるため、効果が小さいという。過去の例から、ドル売り円買い介入を実施した際の1日の最大規模は2.6兆円(1998年4月10日)だ。しかも、この時は主要国との協調介入だった。それに、その日以外は1日1兆円を超えた例はない。
ところが、国際決済銀行(BIS)の調査によると、日本の外国為替市場の1営業日あたりの平均取引高は3755億ドルだ。現時点のドル円レートで換算すると54.0兆円になる。仮に、1日1兆円の介入ができたとしても、全体の2%未満の取引高にすぎない。これでどれだけの効果があげられるか。
だから、木内氏はこう結論づける。
「このように考えると、政府が仮にドル売り円買い介入に踏み切っても、円安の流れを食い止めることはできないだろう。ひとたび為替介入を実施すれば、市場の警戒感はむしろ緩和され、その効果は短期間でなくなってしまう。
他方、当局が為替介入の可能性をちらつかせ、『抜かずの宝刀』のままでいたほうが、当面のところは円安けん制の効果としては大きくなるのかもしれない。この点を考慮すれば、やはり為替介入を実施するハードルはなお高いのではないか」
(福田和郎)