オリンパスが生物顕微鏡などの「科学事業」を、米投資ファンドのベインキャピタルに4276億円で売却する。創業100年を超えるオリンパスの祖業にあたる事業の売却の背景には、何があるのか。
前身の高千穂製作所、顕微鏡技術を欧州から導入
2022年8月29日に株式の売却契約を結んだ。23年1月に譲渡する予定となっている。
科学事業は22年3月期の売上高は1191億円で、オリンパス全社の1割強を占めるが、近年は伸び悩んでいた。売上高営業利益率も15%と、主力の内視鏡の29%と比べて見劣りしており、科学事業を売却し、収益性の高い「医療事業」に経営資源を集中する。
オリンパスの前身の高千穂製作所は、顕微鏡を祖業として1919年に設立。当時、日本には顕微鏡を安定的に製造できるノウハウがなかった。オリンパスは技術を欧州から持ち込み、試行錯誤を重ねながら顕微鏡のレンズ技術を磨き、伝承してきた。
この技術をもとに光学技術を発展させ、デジタルカメラを手掛ける映像事業や消化器内視鏡事など医療事業として花開いていった。
だが、2011年に損失隠しなど不正会計が発覚し、オリンパスを取り巻く状況は一気に暗転した。「オリンパス事件」として経営トップの逮捕にまで進み、自己資本比率は約15%だから一気に4%台へ下がり、存亡の淵に立たされた。
事業環境の面でも、スマートフォンの台頭で好調だったデジタルカメラに陰りが見え始めていた。
売却益どう使う? 医療事業ではこれまでも積極的なM&A
そこから10年、ソニーから500億円の出資を受け、「物言う株主」である米ファンドから出資を受け入れ、社外取締役も招くなど、財務・企業統治の立て直しを進めた。
事業では内視鏡などの医療事業に注力する一方、21年1月、デジタルカメラなどの映像事業を売却。科学事業も11月に分社化し、売却へのレールを敷いていた。21年に募集した早期退職には国内従業員の約6%に当たる844人が応募するなど、容赦ない体質改善も進めていた。
こうした結果、23年3月期の営業利益は2310億円と過去最高の更新を見込むまでになっている。
今後の焦点は、科学事業売却で得た資金をどう生かすかだ。
医療事業ではこの間も、20年12月に呼吸器関連の製品を手がける米ベラン・メディカル・テクノロジーズを354億円で、21年5月にはイスラエルのメディテイト(泌尿器科)を272億円で手に入れるなど、M&A(合併・買収)を積極的に進めてきた。
世界シェア7割を誇る消化器内視鏡から呼吸器など、幅をどこまで広げるか。内視鏡に取り付ける治療機器、人工知能(AI)を組み込んだ機器などの分野を含め、次代の「エース」をいかに育てるか。今後の戦略が注目される。(ジャーナリスト 済田経夫)