ガソリン補助金、2022年末までの再延長に 幻の「縮小案」、一夜にして立ち消えになった裏事情

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   政府のバラマキ体質は相変わらずのようだ。

   政府は2022年9月9日に開いた「物価・賃金・生活総合対策本部」で、ガソリンの価格高騰を抑えるため、石油元売り各社に支給している補助金を12月末まで延長することを決めた。

   当初は段階的に補助金を減らす案が検討されたものの、直前になって官邸・与党内の慎重意見に押し戻された。

  • ガソリン補助金の行方は?(写真はイメージ)
    ガソリン補助金の行方は?(写真はイメージ)
  • ガソリン補助金の行方は?(写真はイメージ)

石油元売りへの35円上限の補助金...当初から「市場価格をゆがめる」批判も

「国民受けを気にしてバラマキに走る永田町の悪癖が繰り返された」

   経済官庁幹部は吐き捨てるようにこう語る。

   補助制度は、市販されるガソリン価格が1リットル168円程度になるよう、石油元売り各社に35円を上限に補助金を支給する仕組み。

   原油価格の高騰を受けて2022年1月に上限5円で始まり、ロシアのウクライナ侵攻などに伴う価格高騰の長期化によって上限の引き上げ、期間延長が繰り返されてきた。

   当初は9月いっぱいで打ち切るになる予定だったが、「原油高騰がまだ収まっていない」として年末までの再延長が決まった。

   岸田文雄首相は9月9日の対策本部で

「世界的な物価高騰の中で国民生活、事業活動を守り抜くことが最優先課題だ。足元の物価状況に速やかに対応するため早急に実行に移す」

と意義を強調した。

   ただ、この制度をめぐっては、開始直後から「市場価格をゆがめる」との批判が強い。霞が関には危機対応の一時的な制度だったにもかかわらず、拡充・延長が繰り返されることで半ば恒久化されることへの危機感も膨らんでいた。

段階的縮小が「既定路線」も、政府が待った...国費の投入規模1兆円以上膨らむ

   制度の意義も薄れつつある。

   原油先物市場は米国市場で6月に1バレル=120ドルを超えたが、世界的な景気減速懸念を受け現在は90ドル前後まで下落している。

   石油輸出国機構(OPEC)と非加盟のロシアなどで作る「OPECプラス」は9月5日の会合で、原油需要の縮小を見越して従来の原油増産方針を一転し、10月から減産に転じることで合意した。

   欧米を中心にインフレ加速で金融引き締めの流れが強まるほか、中国のゼロコロナ政策に伴う経済活動の停滞懸念も加わり、景気の先行きへの不安が高まっている。原油の需給をめぐる風景は大きく変化してきているということだ。

   こうした状況を受け、霞が関では早い段階から、年末までの制度延長を認める代わりに、段階的に制度を縮小することが「既定路線」になっていた。

   9月9日の対策本部直前には各メディアに「現在35円の補助金の上限額を11月に30円、12月に25円に減額する」と具体的な方針が大きく報じられたほどだ。

   これに立ち塞がったのが政治だ。

   与党内から「国民が物価高騰に苦しむ中、制度を縮小するなどあり得ない」(自民党幹部)と反対の声が噴出し、官邸からも「ガソリン価格が突然、跳ね上がれば国民の反発を招く」と慎重意見が浮上した。

   結局、制度は縮小せずに、年末まで単純延長されることに決まった。これにより、9月末まで累計1.9兆円程度と見込まれていたガソリン補助への国費の投入規模は、年内にさらに1兆円以上、膨らむ見通しだ。

「ばらまき」の財源は国の借金...繰り返される後世へのツケ

   これだけではない。

   対策本部では補助制度の延長に加え、物価高の影響が大きい低所得世帯に対する5万円給付の実施も決まった。これも具体案が浮上したのは直前になってからで「付け焼き刃」の印象がぬぐえない。

   背景には安倍晋三元首相の国葬や、旧統一教会問題をめぐる対応に追われ、岸田政権の支持率が急降下する中、政策的な意思決定が後手後手になっている事情がある。

   ある与党関係者は「政府・自民党に対する世論の逆風が強まる中、首相は物価高対策で国民受けを狙うしか手がなかったのだろう」と推測する。

   しかし、一時の人気取りのために講じられる「ばらまき」の財源は国の借金だ。後世にツケを押しつける悪癖が再び繰り返されたかたちだ。

   指導力に疑問符がつく岸田政権。その悪癖を直さない限り、国民の信頼を取り戻すのは難しそうだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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