「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
ベンチャー市場は「拡大」から「選別」の時代に突入
「週刊東洋経済」(2022年9月17・24日号)の特集は、「すごいベンチャー100」。金融市況の低迷でベンチャー市場は、「拡大」から「選別」の時代に突入したという。そんな中、選ばれる未来のユニコーン(評価額が10億ドル以上のベンチャー)企業はどこか探っている。
スタートアップ情報プラットフォームのINITIALによれば、2022年1~6月の国内ベンチャーの資金調達額は4160億円と、上半期として過去最高となり、年間で初めて8000億円を超えた昨年を上回るペースだという。
特集を読むうえで、ベンチャーのエコシステム(生態系)を理解するための解説ページがあり、ここは重宝するだろう。事業の成長のステージに応じた分類がある。「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」の4つだ。
シードステージは、「種」の段階で、構想はあるものの、事業化に向けて開発・研究をしている段階。アーリーステージは製品やサービスの提供が始まった段階。
ミドルステージは、事業が本格化し、収益化の見通しも立ち始めた段階。レイターステージは、成長が軌道に乗り、新規株式公開(IPO)や事業売却(M&A)など出口戦略に向けた事業計画を進める段階だ。
これらのステージに応じた資金調達をする。シードなら数百万円から数千万円、アーリーなら1000万円から数億円、ミドルなら数億円から10億円程度、レイターは数十億円の規模になる。
資金調達の規模を成長度合いに応じて区分した「資金調達ラウンド」があり、国内ではINITIALが定めたものが代表的で、D以上がレイターとなる。ベンチャーがどの成長段階にあるかを把握することが重要になる。
◆過去5年間の「ベンチャー」、IPO果たした企業は26社
特集では、ユニークなビジネスモデルや、先進的な技術を持つベンチャー企業の中から、資金調達の大きさなどを考慮しながら選んだ100社を紹介している。医療、エンタメ、人材、金融、DXなど、さまざまな業種から選ばれている。
過去5年間の「ベンチャー」特集で取り上げた500社の現在を検証した一覧表も興味深い。IPOを果たした企業は26社。そのうち最も時価総額が高いのは、ヘルスケア領域の人材紹介が柱の「メドレー」で1194.1億円。今期の予想営業損益が最も多いのは、AIによる対話自動化機能などをSaaS型で提供している「PKSHA Technology」の14億円で、10社が赤字予想になっている。
未上場各社では、人事労務のクラウドサービスを展開する「SmartHR」など4社がユニコーンになっている一方、解散・破産・サービス終了した企業も12社あった。
「大型上場予備軍」として取り上げているのが、「プリファードネットワークス」など5社だ。同社の企業評価額は3500億円超で、日本一のユニコーンとして知られる。深層学習というAI技術やロボティクスなどの分野で最先端の研究開発を行っているという。
ベンチャーキャピタルからの出資を受けておらず、出資元はすべて国内大手の事業会社で、トヨタ自動車などと共同研究を展開している。
岸田文雄首相は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、政府はスタートアップ企業の支援に本腰を入れている。「スタートアップ育成5カ年計画」を年末までにまとめる見通しだ。
政権の目玉政策に1つだけに、政府の本気度が問われている。
主要資格の受験申込者数、過去10年で最多に
「週刊ダイヤモンド」(2022年9月17・24日号)の特集は、「40歳50歳60歳からの儲かる資格・今から始める副業・役立つ学び直し」。中高年がゼロから始めるノウハウをまとめている。
2021年度、主要資格の受験申込者数が過去10年で最多の250万人超になった。コロナ禍による就業不安やテレワークで生じた時間の有効活用から、資格・検定への注目が高まったと見られる。特に申込者数の伸びが著しいのが、宅地建物取引士や中小企業診断士など「中難易度」とされる資格だという。
法律系資格の登竜門、行政書士試験は注目だ。難易度は宅地建物取引士の少し上あたりで、合格率は10%台。行政書士のメリットは実務経験なしで開業できることだという。最近はコロナ禍によって、飲食店の売買が盛んに行われていたのに加え、補助金の申請などで行政書士の仕事が激増した影響もあり、右肩下がりだった受験者数が増加傾向になる。
さらに上位の法律系資格を目指すなら司法書士だが、こちらは最難関資格のうちの1つとされ、合格率は3~5%。民法や不動産登記法、会社法、商法など11の法律科目があり、学習時間は最低でも3000時間が必要といわれている。法改正で、2025年4月から相続登記が義務化されるので、司法書士の仕事が増えると予想され、有望な資格になりそうだという。
この4年間で応募者数が2.6倍に増えた「ITパスポート」も注目されている。実務経験がない中高年でも、チャレンジしやすい資格を取ることで「ITに強い」とアピールしたり、副業につなげたりすることは可能だ。
続けてITエンジニアの登竜門である「基本情報技術者」にステップアップするのは、実務未経験者にはハードルが高い。
副業目的なら「ITパスポート」を取得して基礎知識を学んだうえで、プログラミングスクールでウェブ制作など実践的なスキルを身につければ、スムーズに副業につなげることも可能だという。経験を数カ月積むと、時給換算で2000~2500円の報酬を得られるというから、隙間時間の活用にはうってつけだ。
◆「週末副業」とは? コンテンツ起業家とは?
経営コンサルタントの藤井孝一さんが勧めるのは、最少リスクの「週末副業」だ。
たとえば、外資系金融機関で働きながら、日本酒と料理を楽しむ会を開いている女性の例を紹介している。料理人や酒造業者などを講師に呼び、レクチャーしてもらったうえで、お酒と料理を提供する。このほかに、見学ツアーや飲食店へのアドバイスなどで、月10万円ほどの収入があるそうだ。
また、ビジネスパーソンが業務経験を生かしてコンサルタントや専門家になる方法について、メンタルチャージISC研究所代表取締役の岡本文宏さんがアドバイスしている。
コンテンツ起業家として活躍するには、「講師」「筆者」「個別コンサルティング」の3つのビジネスエンジンが必要だという。まずは、セミナー講師になることを優先。次に、雑誌などで執筆する筆者に。最後に個別コンサルティングを目指す。この順番を必ず守ってほしいという。
ナルミナス・キャリア代表の並木秀陸さんが、イチ押しするのは宅地建物取引士だ。
オンラインによるビジネスチャンスが拡大していることを理由に挙げている。不動産売買や貸借などの仲介業務を行う場合、宅地建物取引士は対面で重要事項説明を行うことが義務付けられていたが、今後はオンラインによる非対面での重要事項説明が可能になる。
これにより、宅地建物取引士は、オンライン環境さえあれば、どこでも不動産仲介業務ができるようになる。
特集では、このほか面接だけで入れる東京大学の大学院など、お得な名門大学院リストやMBAの後悔しない選び方をまとめている。
米利上げで景気後退の可能性
「週刊エコノミスト」(2022年9月20・27日号)の特集は、「大予測 米国発世界経済リスク」。米国が急速な金融正常化モードに入り、世界経済にどんな影響が出るかとまとめている。
「歴史的な高インフレが米国市民の生活を直撃している」と編集部レポートは書き出している。
6月の「米消費者物価指数総合」は前年比9.1%上昇と、40年ぶりに9%の大台に乗った。こうした中、米金融市場関係者は9月21日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)で発表される利上げ幅に注目しているという。0.5~0.75%の利上げ幅になると見られる。そうなると、内需は一段と抑制され、2023年前半にかけて景気は相当後退する可能性がある。
編集部のレポートで注目したのは、「米株支える『自社株買い』減少」という記事だ。米企業による自社株買いは近年、米株相場を押し上げてきた大きな要因の1つだ。2021年4月~22年3月の米国の自社株買い総額は8055億ドルで、日本円換算で約11兆円と過去最大だった。
だが、今年8月16日、米議会で新しい歳出・歳入法が成立し、「自社株買い」への課税が来年1月から始まる。間違いなく株価の下押しリスクになる、という専門家の声を紹介している。
第一生命経済研究所主席エコノミストの西濱徹氏は、米利上げで新興国から急速に資金流出が始まった、と指摘している。
このほか、米国のエネルギー価格の高騰、過去最大規模になった不法移民数、ウクライナへの軍事支援など米中間選挙の争点をまとめている。
米国経済と米国株が世界経済をリードしているという特集を何度も組んできた同誌だが、少し軌道修正ということだろうか。米国のインフレと利上げの行方を注視したい。
(渡辺淳悦)