新型コロナウイルスはオミクロン株の感染急拡大による「第7波」のさなか、政府は「ウィズコロナ」に舵を切り始めた。2022年9月6日、感染者の全数把握の見直しや療養期間の短縮を表明。あわせて新型コロナ感染症を、いよいよ感染症法上の「2類」から季節性インフルエンザ並みの「5類」に見直すのだろうか――。
そんななか、帝国データバンクが7日、「新型コロナ分類見直しに関する企業の意識調査」を発表。企業の半数以上が「インフルエンザ並み」を求める結果が出た。経済活動の優先を期待してのことだが、「迷い」もみられる。それはいったい何か。
経団連の十倉会長「インフルエンザ並みに見直すべき」
感染症法は、重症化リスクや感染力に応じて感染症を「1類」から「5類」に、下記のように分けている。
【1類】危険性が極めて高く、かかると致死的なリスクが=ペスト、エボラ出血熱、ラッサ熱など。
【2類】1類ほどではないが危険性が高く、パンデミックのリスクもある=結核、鳥インフルエンザ、ジフテリア、新型コロナウイルスなど。
【3類】集団食中毒など、主に飲食物から集団発生=コレラ、腸チフス、細菌性赤痢など。
【4類】動物が媒介する特殊な「人畜共通感染症」=サル痘、オウム病、蚊が媒介する日本脳炎、デング熱、マラリアなど。
【5類】危険性は高くないが、発生・拡大を防止すべき感染症。国が発生状況を定期的に公開=季節性インフルエンザ、麻しん(はしか)、風しん、水痘(水ぼうそう)、梅毒、手足口病など。
現在、新型コロナウイルスは「2類相当」の扱いになっており、国や自治体は患者に対し、入院の勧告、就業制限、外出自粛の要請が可能となる一方で、検査や治療の費用は国が公費で全額負担している。
しかし、いま流行の中心となっているオミクロン株は、感染力は強いが重症化率は低いとされる。医療機関や保健所の負担を減らすために、季節性インフルエンザと同等の「5類」に、分類を引き下げるよう求める意見が経済界や知事会などから相次いでいる。 「5類」に分類されると、検査や治療の公費負担がなくなるが、国や自治体による入院勧告、就業制限、行動自粛要請などがなくなり、経済活動がかなり自由になるからだ。
報道をまとめると、日本経済団体連合会の十倉雅和会長は7月14日、大阪市内で記者会見し、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けについて「政府は5類への見直しを検討してほしい」と表明した。
また、全国知事会・新型コロナ緊急対策本部の黒岩祐治副本部長(神奈川県知事)も7月28日、日本医師会との意見交換会で「新型コロナを季節性インフルエンザと同じ5類に見直すべきだ」と訴えた。
一方、政府側は9月8日、加藤勝信厚生労働相が「(5類への見直しは)現時点では現実的ではない」としたうえで、「感染拡大防止と社会経済活動の両立を図るなかで、必要に応じて見直しを検討する」と述べるにとどめている。
企業の4割近く「判断がつかない」
帝国データバンクの調査によると、新型コロナの感染症法上の分類について、自社の企業活動を行ううえで望ましい位置づけを聞くと、「5類相当への運用の見直しが望ましい」とする企業が51.1%と半数以上を占めた。一方、「現行の2類相当の運用のままが望ましい」とする企業は12.3%にとどまった=下の図表参照。
また、判断しかねている企業が4割近くあった。「できれば5類に移行してインフルエンザ程度の扱いにしたいが、感染者が多く侮れず、2類・5類の見直しについて判断がつかない」(旅館、長野県)といった意見にみられるように、「どちらとも言えない」と「わからない」の合計が36.5%に達した=図表参照。
企業はどう考えているのだろうか――。まず「2類相当の運用のままが望ましい」とする意見はこんな声が代表的だ。
「2類相当のままのほうが会社としても出勤停止などの指示が出しやすく、受注先に納期が遅れても納得してもらいやすい」(銑鉄鋳物製造、群馬県)
「5類相当にすれば、強制的な就業制限は弱まるが、結局、(コロナ禍を)蔓延させると会社の稼働に影響が出てしまう。今のルール(保健所指示による自宅待機)維持がかえって社会活動の維持に繋がると考える」(野菜果実缶詰等製造、山形県)
「自社の7~8月の感染者数は急増している。濃厚接触者も多く、季節性インフルエンザより遥かに感染力が強いことを、身をもって感じた。薬が普及するまでは現状を続けてもらいたい」(配管冷暖房装置等卸売、大阪府)
「政府は企業や国民が安心できるよう丁寧な説明を」
一方、「5類相当への運用の見直しが望ましい」とする意見は、こんな声が代表的だ。
「5類相当への早期引き下げをしないと、いつまでも経済活動が元に戻らない」(一般機械修理、埼玉県)
「現行の感染症法上の決まりに当てはめるのではなく、5類相当とし、社会の状態、状況に応じて公費負担などを柔軟に時限的に設定し、感染抑止と経済活動の共存を図るのがよい」(パッケージソフトウェア、福岡県)
「中小企業は、大企業と違って人の余裕はなく、新型コロナの感染や濃厚接触などで、社員の10日間の自宅待機は相当な重荷になる」(金属線製品製造、広島県)
としている。
この調査結果について、J-CASTニュース会社ウォッチの取材に帝国データバンクの担当者はこう答えた。
「2類のままがいいのか、5類に見直すか。政府や経済界、地方自治体の中でさまざまな意見があるので、フラット(中立)な立場で調査しました。企業からは経済活動をスムーズに行うために5類相当を求める声が多く出ましたが、『わからない』『判断できない』と悩む声が3割以上あったことが注目されます。
5類相当と答えた企業の中にも、本当に安全かどうか迷いもみられます。また、2類相当のまま続けるべきだと答えた企業には、個人を相手にするサービス業が目立ちました。自社の経済活動よりお客の安全を考えたためと思われます。各企業ともどちらが安全で正解なのか、よくわからないというのが正直な気持ちだと思われます」
と指摘したうえで、
「政府が最終的に判断する際、企業や国民が安心できるよう、丁寧な説明をしていただきたい」
と、政府に注文を付けた。
なお調査は2022年8月18日~31日、全国2万6277社を対象にインターネットを通じてアンケートを実施。1万1935社(45.4%)から有効回答を得た。
(福田和郎)