2022年7月の経常収支の季節調整値が赤字に転落した。経常収支の季節調整値が赤字となるのは、2014年3月以来、8年4か月ぶりだ。季節調整値はより経済実態に沿ったものであり、季節調整値が赤字に転落した点には、十分に注意を払う必要がある。
力を失いつつある「輸出立国」日本
財務省が9月8日に発表した7月中の国際収支(速報)によると、経常収支の原数値は6月の1324億円の赤字から2290億円の黒字となった。だが、季節調整値では6290億円という大幅な赤字に転落した。
原油・資源高や円安進行を背景に、7月の貿易・サービス収支の原数値が2兆29億円の赤字と13か月連続の赤字。さらに、季節調整値は2兆4260億円の赤字と14か月連続の赤字となっており、これが、経常収支の悪化につながっている。
貿易・サービス収支は輸出が原数値で8兆5838億円、季節調整値8兆4830億円とだったが、輸入が原数値で9兆7959億円、季節調整値で10兆2971億円と輸出を大きく上回ったことで、前月よりも原数値で982億円、季節調整値で2222億円赤字幅が拡大した。
世界的な半導体不足と中国・上海の新型コロナウイルス対策でのロックダウンにより、解除後も部品供給が滞っており、自動車産業を中心に輸出が伸び悩んだことも大きい。
新型コロナ感染拡大後の2020年1月からの貿易収支・サービス収支の動きを見ると、原数値では2020年7月までは新型コロナにより世界の生産活動が停滞したことで、赤字が続いたが、その後は2020年末までは回復基調をたどった。
だが、2021年に入ると7月から赤字が続き、2022年7月まで赤字が継続している。これは、明らかに為替円安の進行によるものだ。特に、2022年4月以降は急激な円安進行により赤字幅が拡大している。
季節調整値で見ると、原数値のように大きな変動はないが、2020年11月以降、下降トレンドが続いており、2022年3月以降は下降が急になっていることがわかる。つまり、輸出立国と言われる日本は、その力を失いつつあるのだ=表1。
「国の儲け」が減ってきている
一方、経常収支も2020年1月以降、原数値では2020年4月179億円、6月595億円、2021年12月2675億円、2022年1月1兆1257億円、6月1324億円と5回赤字に転落している。だが、季節調整値では、この7月が初めての赤字転落だ=表2。
経常収支は貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の合計で、「国の儲け」を表す。
経常収支の中で大きな比率を占めるのは、貿易収支と第一次所得収支で、貿易収支は輸出入の収支、第一次所得収支は海外への投資や運用により生じる利子・配当金等の収支となる。
貿易・サービス収支が赤字、特に原数値では2021年7月、季節調整値では6月から恒常的な赤字に陥っても、経常収支が黒字を継続してきたのは、貿易収支の赤字を主に第一次所得収支がカバーしてきたからだ。
ところが、ここに来て、経常収支が急激に悪化し始めている。
2022年6月には原数値で、7月には季節調整値で赤字に転落した。貿易・サービス収支の赤字を第一次所得収支などでカバーすることが難しくなってきているのだ。
新型コロナ感染拡大後の2020年1月からの動きを見ると、原数値は大きく変動しているが、季節調整値も貿易・サービス収支ほどではないが、確実に低下していることがわかる。つまり、「国の儲け」が減ってきているのだ。
筆者は経常収支の動き、特に赤字の影響に注意を払っている。
その理由は、日本が対GDP(国内総生産)比で、主要国では最悪の政府債務を抱えても、財政破綻やデフォルトの危機に陥らない理由の一つとして、経常収支黒字国であることがあげられる。
経常収支が黒字ということは、日本は海外への投資や運用により、対外債権を潤沢に持っており、「稼ぐ力がある」ということだ。この稼ぐ力があることが、日本の財政、円に対する信認につながっている。
だが、経常収支が赤字となれば、「日本は稼ぐ力がない」となり、財政や円に対する評価が低下し、さらなる円安が加速する恐れがある。それも、日米の金利差で起こる程度の円安ではなく、危機的な円安が起こる可能性を内包している。
現在の円安進行、原油高・資源高による物価高に対しても、何らの打開策を持たない政府と日銀が、経常収支の赤字が恒常化した時に有効な対応策を持っているとは到底思えない。
政府は早急に経済対策を実施し、景気の回復と貿易・サービス収支の改善による経常収支の回復を進めていく必要がある。