財務省OBの嘆き「完全にたがが外れている」
それにもかかわらず、各省庁が事項要求を膨らませているのは、政権や与党の後押しが期待できるためだ。
岸田首相が掲げる「新しい資本主義」など政権が重視する政策に事項要求を詰め込むことで「通常のルートで予算要求するよりも財務省を突破しやすい」との思惑がある。
なかでも露骨なのが防衛省だ。
防衛費拡大の流れにのって、概算要求では約100項目にのぼる事項要求を並べてみせた。政府関係者は「防衛費の拡大は23年度予算の目玉。防衛省には強気の要求をしても、財務省は拒否しづらいという思惑があるのだろう」とみる。
本来は予算の内容に政府の特色を出すためにあるはずの「重要政策推進枠」や「事項要求」が、現実には各省庁の便利な「財布」と化している。この実態に、財務省で予算編成を担う主計畑を長く歩いてきた官僚OBは「完全にたがが外れている」と嘆く。
「政府・与党は財政出動を加速させ、国民受けを狙うことにしか興味がない。各省庁もその空気を利用し、省益の拡大に向けて無理を承知でメチャクチャな要求を重ねている。政官が『財源が足りなければ借金をすればいい』という甘い考えに染まったことが背景にある。深刻な財政危機に直面しない限り、この悪癖は収まらないだろう」
「肥大化予算」「ずさんな査定またも」――。23年度当初予算案の編成作業はこれから本格化するが、早くも予算案がまとまる年末に各メディアがこう酷評する事態が見えるようだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)