言い訳ばかりして、上司の指示を聞かない部下...どう対処する?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE 11】(前川孝雄)

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。

   今回の「CASE 11」では、言い訳ばかりして、上司の指示を聞かない部下のケースを取り上げます。

  • 部下と良好な関係を築くには?(写真はイメージ)
    部下と良好な関係を築くには?(写真はイメージ)
  • 部下と良好な関係を築くには?(写真はイメージ)

「まだ終わっていないのか?!」

【上司(課長)】A君。先月までの営業進捗の資料、仕上げておいてくれたか?
【部下】いいえ、まだですが...。
【上司】そうなのか、困るな。 もうとっくにできていると思っていたのに。
【部下】繁忙期なので、期日はあらためて相談しようとのことでしたよね...。
【上司】ずっと忙しくて難しいなら、私に段取りを相談するか、BさんかC君に手伝ってもらえばいいじゃないか。そのためのチームだろう。
【部下】しかし、今は皆も手一杯な時期ですので...。
【上司】いちいち言い訳だな! この時期忙しいのは初めからわかってるんだから、早め早めに相談するのが当然だろう。Bさんに頼むから、君はもういい!
【部下】はあ?...(課長の指示はいつも思いつきでブレブレだよ...。)

部下からどのように見られているかを理解する

   どうやら、上司と部下の状況認識や、優先順位の考え方が食い違っているようですね。みなさんも、部下から「それでは、先日の指示と食い違っていますが...」「そうは言っても、今は手一杯で難しいです」などと反論され、気持ちを削がれた経験はないですか。

   もちろん、上司の側にも言い分はあるでしょう。「状況が変わっているのだから、指示が変わるのは当然だ」「新人でもないのに、今さら何を言ってるか」「忙しいのはわかってる。それでも今が頑張り時なのがどうしてわからない!」など...。そんな思いを抱いたり、実際に言葉にしてしまったりした場面もあるかもしれません。

   しかし、そんな時こそ、「部下が自分をどう見ているのか」という視点から、自分を見つめ直すことが大切です。とはいえ、面と向かって部下に「私の事をどう思っている?」と聞いても、本音が返ってくることはまずないでしょう。

『内省ノート』に書き留めて、自分を見つめ直す

   そこで、CASEのように、日々のコミュニケーションのなかで、言われてカチンときたことや違和感をもったこと、ショックを受けたことなど一つひとつを、ノートに書き留めておくことをお勧めします。

   『内省ノート』などと題して、後々自身の研鑽のために振り返られるようにしておくとよいでしょう。気持ちはわかりますが、くれぐれもカッとなってすぐ反論したり、怒鳴りつけたりすることは抑えましょう。

   そして、一人の時間にじっくりクールダウンしながら、『内省ノート』にメモした一つひとつの部下の言葉を、発言した部下の視点から、あらためて掘り下げてみましょう。すると、部下が自分に対して抱いている不満、自分をどう見ているかといったことが、徐々に見えてきます。

「自分のなかでは辻褄が合っているつもりだったが、部下から見たら軸がブレているように感じられるのかもしれない」
「部下一人ひとりが今どのような状況で仕事をしているのか、確かに十分には把握できていなかった」

   こういった気づきが生まれてきます。そして、ここまで整理できたことは、あらためて書き留めておきましょう。

まず上司自身が自己理解を深める

   相互理解のためには、部下を知ろうとする以前に、上司が自分自身を知り、それを部下にもよく知ってもらうことです。

   そのためには、上司が自分自身を理解するプロセスが必要です。すなわち、自己理解→自己開示→他者理解→他者を受けとめる(相互理解)、という流れをイメージしてください。

   「自分のことなら、今さら理解を深めなくてもよくわかっている」と思っている人も多いでしょう。しかし、本当にそうでしょうか。日々の業務管理や部下へのサポート、営業成績への腐心などから、心の奥底にある思いや大切にしている価値観を見失ってはいませんか。

   それを確かめる意味でも、目先の管理職としての心配事や課題をいったん置いて、深くじっくりと内省することをお勧めします。優れたリーダーのなかには、意識してそうした時間をとっている人が少なくありません。

「自分はこの仕事を通して、どのようなことを実現しようと思っているのか」
「自分はどのようなリーダーでありたいと思っているのか」
「自分は理想を実現するために、最善の努力をしているだろうか」

   こうしたテーマは、普段、突き詰めて考える機会が少ないのではないでしょうか。自身の課題と向き合って内省することは、たしかに苦しい作業です。多くの場合、現実との乖離が浮き彫りになるからです。しかし、それこそが重要なのです。

   この自己理解を通して、自分の思いや価値観を改めて整理し、上司自身の真の課題を発見してください。

◆自己理解と必要な行動が明確になる、次の5つの質問に答えてみましょう
Q1 自分の職場(チーム)は社会のなかで、どのような存在なのか?
Q2 そうした職場を運営する自分の使命は何か?
Q3 その使命を果たす上で、大切にしていくべき思いや価値観は何か?
Q4 その思いや価値観をもって、発揮していく能力と行動はどうあるべきか?
Q5 そうした行動で、どのような職場を作っていきたいのか?

   自己理解と課題の整理が進んだら、前述の部下の視点から見た自身の改善点を重ね合わせ、上司としてのあり方や行動の修正を検討しましょう。上司自らが、自己改善のアクションプランを立てるのです。

進んで自己開示を~弱さをさらけ出せるほど、強さを感じさせる~

   ここまで準備が進んだら、朝礼や定例会議など部下が集まる機会を利用して、部下の言葉から何を感じたか、それを受けて自分のあり方や行動をどう改善しようと考えているかなどを、部下に対して表明してください。同時に、気づかせてくれたことへの感謝の気持ちも伝えましょう。

   「そんなことをしたら、部下に弱みをみせることになる」と感じるかもしれませんね。

   けれども、自己開示は相互理解のための大切な作業なのです。上司も部下とのコミュニケーションから日々気づきを得て成長していると伝えることは、何らマイナスにはなりません。むしろ、部下にとっては、上司をより深く理解する機会になります。

   一般的に、堂々と自分の弱みをさらけ出し、自己開示できることに、人は強さを感じます。弱みを隠し表面を取り繕うことこそ、弱さを感じさせる行為なのです。

   また、この自己開示によって、部下は自分の言葉が上司に影響を与えうることを実感します。本音を言えない組織風土では、部下は心から安心して上司や同僚たちに向き合えません。

   そう言う意味でも、上司自身が部下のフィードバックを受けた自己改善を表明することは、「本音を言える組織風土」を形成していく重要な一歩にもなるのです。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著「本物の上司力~『役割』に徹すればマネジメントはうまくいく」(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の「上司力」』(大和出版)等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)。

姉妹サイト