「欧州中央銀行の大幅利上げは勝算が乏しい」
一方、「ECBの大幅利上げは勝算乏しい」と指摘するのは、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏は、リポート「景気後退覚悟で0.75%の大幅利上げに踏み切ったECB」(9月9日付)のなかで、「勝算が乏しい」理由について、ラガルド総裁自身が述べている発言をこう紹介する。
「ラガルド総裁は、『金融政策でエネルギー価格を下げることはできない』とし、利上げは、物価安定回復に向けたECBの強い意志を示すシグナルであることを強調している。米国での物価高騰は需要面の強さによるところもある一方、ユーロ圏インフレは供給要因が中心であり、金融政策では直接対応できないもの、との考えを示している。さらなる利上げによって物価上昇率を抑えていくことができるという勝算を持っていないなかで、今後も利上げを続ける考えなのである」
つまり、欧州のインフレはあくまで、ロシアからエネルギーの供給を絞られていることが原因。そのため、利上げを行っても限界をあることを承知しつつ、景気後退を覚悟のうえで突き進んでいるわけだ。しかも、米FRB(連邦準備制度理事会)の動向次第、という受け身の立場だ。
「今回の大幅利上げの決定には、対ドルでパリティ割れ(ユーロの価値が1ユーロ=1ドルの等価、つまりパリティを下回ること)まで進んだユーロ安が大きく影響しているのではないか。
米連邦準備制度理事会(FRB)の大幅利上げについていかないと、ユーロ安がさらに進んで物価上昇率が一段と進んでしまうからである。このようにして、多くの国では自国通貨安を回避するためにFRBに後れを取らないように大幅利上げを急いで実施しているのである」
この欧州中央銀行の悲壮な利上げ作戦はいつまで続くのか。木内氏はこう結んでいる。
「今後のECBの利上げは、FRBの利上げとそれを受けたユーロの動きに大きく左右されるだろう。FRBは早ければ11月にも利上げペースを縮小させ、それがドル高の一服につながる可能性がある。
他方で、ある程度覚悟をしているとはいえ、ユーロ圏経済が深刻な景気後退に陥る可能性が高まる、あるいは金融市場の動揺が生じることをきっかけに、市場や企業・家計の期待インフレ率がにわかに低下すれば、ユーロ安の一服も踏まえて、ECBは追加利上げに慎重になるだろう」
欧州が深刻な景気後退に陥ってから、やっと利上げも止まるだろうという。大変な事態であることは間違いない。
(福田和郎)