欧州のエネルギー危機自衛策が、逆にロシアから報復を招く
さて、欧州中央銀行(ECB)は今後、どれだけ利上げを続けていくのだろうか。
「ロシアの欧州向けガス供給やガス価格次第だが、年明けも続くだろう」とみるのは、第一生命経済研究所主席エコノミストの田中理氏だ。
田中氏はリポート「パウエルに負けじとラガルドもタカ派傾斜~中立金利に向けて利上げを急ぐ~」(9月9日付)のなかで、まずECBが発表した「ベースシナリオ」と「リスクシナリオ」(悪いシナリオ)をわかりやすい表で示した=図表参照。
これを見ると、悪いシナリオでは、来年(2023年)の実質GDP(成長率)がマイナス0.9%に落ち込むばかりか、天然ガス価格が現在でもエネルギー危機を招くほど高いのに、その2倍以上に跳ね上がることが注目される。
最悪のケースの可能性がある理由を田中氏はこう説明する。
「欧州各国ではエネルギー価格の上昇による国民生活や経済活動への打撃が広がっており、EUは9月9日に緊急エネルギー閣僚理事会を開き、ロシアから輸入するガス価格に上限を設けることや、エネルギー企業の超過利益に課税することなどを検討する。
こうした措置はガス価格の上昇抑制につながる可能性がある一方で、ロシアが報復措置としてウクライナやトルコを通るパイプライン経由の欧州向けガス供給を絞ることで、ガス価格の一段の高騰を招く恐れもある」
ロシアのウクライナ侵攻によって起こった欧州各国のエネルギー危機だが、その自衛策が逆に、ロシアから報復を招く恐れがあるわけだ。
「秋に向けてユーロ圏の消費者物価の上昇率が一段と加速する可能性が高く、賃上げや価格転嫁の動きが広がることもあり、ECBは積極利上げを継続しよう。筆者(の田中氏)はECBが10月の理事会で再び0.75%、12月の理事会で0.5%の追加利上げを決定し、年末時点の預金ファシリティ金利が2.0%に到達すると予想する。年明け以降も物価が高止まりすることから、2.5%に向けて利上げを継続すると考える」