NECの株価が2022年8月30日の東京株式市場で一時、前日終値比335円(7.0%)高の5110円まで上昇した。
前日にNECとして初めてとなる自社株買いを発表しており、株主還元策の強化を歓迎する買いが入った。ただ、その後の株価はじりじりと下がって、「自社株買い効果」がはがれる兆しもあり、株価の本格的な回復には本業の回復を示す必要がありそうだ。
自社株買い...発行済株式総数2.46%、300億円を上限に
それでは自社株買いの内容を確認しておこう。取得株数は自己株式を除く発行済株式総数の2.46%にあたる670万株、取得総額は300億円をそれぞれ上限とする。取得は8月30日から2023年3月31日まで実施する。
NECは「財務状況改善や業績見通しに照らした現在の株価水準等を総合的に考慮した結果、自己株式を取得することにした」と説明している。
自社株買いは、発行済み株式数を減少させることで1株当たりの利益や資産が増える。株主還元策であり、企業としては株価浮揚効果を期待できる。
発表した8月29日には急遽、アナリストを対象にした説明会を開いており、「低調な株価水準に満足していない経営陣からのメッセージを示す意図があった」という趣旨のコメントがなされたという。
NECはこれまで資金の振り向け先として成長投資を重視する方針で一貫しており、それがこれまで自社株買いを行ってこなかった理由でもあった。
証券各社おおむね歓迎...ひとまず効果は出たが、なかなか上向かず
だが、ここへきて、こうした従来方針をやや修正したようだ。
SMBC日興証券は自社株買い発表を受けて配信したリポートで「自社株買いはNECにとって優先度が低いと解釈しており、唐突感があった」と指摘し、「株式市場へ向き合う姿勢の変化として前向きに評価したい」とした。
証券各社もおおむね歓迎しており、UBS証券は目標株価を7000円から7200円に引き上げた。
NECの自社株買いは、2022年4~6月期連結決算(国際会計基準)の発表後に株価が急落したことへの危機感があったのではないか、との見方も市場で出ている。
7月28日に発表されたこの第1四半期決算は、通信機器の低迷などにより最終損益が138億円の赤字(前年同期は2億円の黒字)となった。
NECは利益の計上が1~3月期に偏る傾向があるとはいうものの、同期間として2年ぶりの赤字に市場は失望し、7月29日に安値引けとなった終値は前日比395円(7.5%)安の4895円に急落した。
株価がその後も回復せずに推移したところに打ち出した初の自社株買い。ひとまずは効果が出たものの、じりじりと後退し、9月に入って終値で5000円を割り込む日が続いている。(ジャーナリスト 済田経夫)