SUBARU(スバル)は運転支援システム「アイサイト」搭載車の世界累計販売台数が2022年6月に500万台を達成したと発表した。
スバルは世界で年間90万~100万台の乗用車を販売する中堅メーカーで、アイサイト搭載車は21年に発売したスバル車の91%を占めるという。
アイサイトはマニュアル・ミッション車には搭載されないため、スバルの新車を購入するAT車ユーザーのほぼすべてがアイサイトを選択している計算になる。
ITARDA最新データ、アイサイト搭載車の追突事故発生率0.06%
「ぶつからないクルマ?」のキャッチフレーズで知られるスバルのアイサイトは2008年5月、業界に先駆け日本でデビュー。自動ブレーキから始まり、車線の中央維持や逸脱抑制など機能を充実させた。
現在は自動車だけでなく歩行者、二輪車までも対象としたプリクラッシュブレーキや、全車速追従機能付クルーズコントロールなどを実現。日欧米で高い評価を受け、「運転支援システムとして世界トップクラス」(業界関係者)とされる。
スバルが公益財団法人「交通事故総合分析センター(ITARDA)」のデータをもとに1万台当たりの事故発生件数(2011~14年)を調べたところ、アイサイト装着車は追突事故が84%、人身事故は61%低減したことが16年にわかっている。
さらに今回、同センターの最新データを調べたところ、日本国内で2014~2018年に発売したアイサイト(バージョン3、45万6944台)搭載車の追突事故発生率は0.06%だった。スバル以外の事故発生率はわからないが、アイサイト搭載車は平均より低いとみられる。
また、米国の保険業界の非営利団体「道路安全保険協会」の調査(2017年1月時点)では、アイサイトの搭載で、負傷を伴う追突事故が85%低減したという。追突事故の8割低減は、16年発表の日本国内のデータと同様で、日米の傾向は同じだった。
最新システム「アイサイトX」、自動運転「レベル3」に近い機能
スバルは22年8月31日、メディア向けにアイサイトの技術説明会を開いた。アイサイトは運転席のバックミラー周辺に取り付けた二つのカメラ(2眼=ステレオカメラ)で路上の対象物を判別している。
20年発売の新型レヴォーグでは、視野を大幅に広げた新開発のステレオカメラと画像認識ソフト・制御ソフトの改良に加え、前後4つのレーダーや高精度地図ロケーターなどを組み合わせ、より幅広い運転支援が可能になった。
「アイサイトX」と呼ばれるこの最新システムは、車線変更支援、カーブ前速度制御、渋滞時ハンズオフ(手放し運転)アシストなど、自動運転の国際基準では「レベル2」ながら、「レベル3」に近い機能を実現している。
自動運転のレベルは5段階に分かれ、レベル1が自動ブレーキなどの「運転支援」、レベル2が高速道路で前のクルマに追走し、手放し運転など「高度な運転支援」ができるクルマだ。
そして、ここから先が本格的な自動運転で、レベル3は高速道路など「特定条件下の自動運転」が認められたクルマで、ホンダが世界に先駆け21年3月に発売したが、本格的には普及していない。
AI開発拠点「SUBARU Lab」で研究開発&アイサイトの車載ソフトを自動更新「OTA」導入も
「2030年に交通死亡事故ゼロ」を目指すスバルは、25年以降にアイサイトに人工知能(AI)を搭載し、さらに安全機能を強化する考えを表明した。自動ブレーキで衝突を回避できないとAIが判断した場合、ステアリングを自動で操舵し、衝突を避けることなどを目指すという。
スバルは20年、AIの開発拠点「SUBARU Lab(スバルラボ)」を東京・渋谷に開設。「ステレオカメラ技術にAIの判断能力を融合させることで、安全性をさらに向上させる研究開発を進めている」という。
さらにスバルは、アイサイトの車載ソフトを無線通信で自動的に更新する「オーバー・ジ・エアー(OTA)」と呼ばれるシステムの導入も検討していることを明らかにした。OTAは米テスラが電気自動車(EV)の制御システムの自動更新に用いていることで注目を浴び、世界の先進的な自動車メーカーでスタンダードになりつつある。
OTAは、ホンダが世界初のレベル3を実現した「レジェンド」に採用したほか、トヨタもスバルと共同開発した本格EV「bZ4X」(22年5月発売)などに搭載。トヨタは「販売店へ入庫することなく性能向上のためのソフトウェアアップデートが可能」などとアピールしている。
スバルも次期アイサイトにOTAを搭載するのは確実とみられ、運転支援システムの分野でも自動更新が一気に進む可能性がある。(ジャーナリスト 岩城諒)