38年ぶり見直しの「景気動向指数」...経済構造の変化反映も、当面は新旧指数併存 判断「混乱」も懸念...慎重なかじ取りを

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   「景気動向指数」を38年ぶりに見直し――。内閣府が、文字通り、景気の動向を判断するための新しい指数を2022年8月22日に公表した。景気の「山」「谷」の判断にもつながるもので、経済構造の変化を反映したという。その狙い、今後の運用の課題は?

  • 「景気動向指数」を38年ぶりに見直す(写真はイメージ)
    「景気動向指数」を38年ぶりに見直す(写真はイメージ)
  • 「景気動向指数」を38年ぶりに見直す(写真はイメージ)

そもそも「景気動向指数」とはどういうものか?

   景気動向指数は、景気に先んじて動く「先行指数」、現状を表す「一致指数」、遅れて動く「遅行指数」の3つからなり、1984年に今のかたちになった。

   3つの指数は、それぞれ複数の統計を組み合わせて算出する。先行指数は機械受注、新規求人数、新設住宅着工面積など11種類、一致指数は鉱工業生産、有効求人倍率、輸出数量指数、小売業販売額など10種類、遅行指数は家計消費支出、完全失業率、法人企業設備投資など9種類からなる。

   この中で、主に景気判断に使われるのは一致指数だ。内閣府は、その動きから景気の基調判断として「改善」「足踏み」「局面変化」「悪化」「下げ止まり」のいずれかに決める。

   直近2022年6月の一致指数(2015年=100)は前月比4.1ポイントアップして99.0となった。上昇幅は比較可能な1985年以降で最高となり、内閣府は「改善を示している」との基調判断を継続した。

   景気動向指数の役割は、その時々の景気の動向を見るだけではない。景気の拡大期から後退期の転換点である「景気の山」、その逆の「景気の谷」の時期を判断する重要な材料としても利用されている。

   有識者らでつくる内閣府の「景気動向指数研究会」が指数を構成する統計の動きなどをもとに、1~2年後に「山」「谷」を慎重に判断する。

新指数は「一致指数」の新バージョン...サービス関連のデータを追加

   今回の新指数は、一致指数の新バージョンとなる。

   具体的には、従来の指数が「製造業偏重」と批判されてきたことから、構成する統計に無形固定資産(ソフトウエア投資)、サービス輸出、第3次産業活動指数などサービス関連のデータを追加した。

   8月22日に初めて6月の新指数が、従来の一致指数とともに発表された。6月の新指数は、前月比1.6ポイントアップの102.5となり、従来の一致指数の99.0を上回ったがアップ幅は従来の4.1ポイントより小さかった。

   もっとも、新旧の指数を比べて、どちらが実態を正しく反映しているか、簡単には判断できない。

   たとえば、サービス消費などサービス部門のデータの動きは緩やかな傾向があるため、景気の「山」「谷」が明確に見えにくく、判断のタイミングが遅れる懸念がある。

   「新指数は、現行指数よりも経済活動を幅広くとらえているのは長所だが、景気循環を把握する点では劣る可能性がある」(エコノミスト)との指摘がある。

見直しの背景に、政府の景気判断と、景気の「山」判定食い違い

   実は、今回の見直しには、政治的な理由もあった。

   引き金は、20年7月、内閣府の景気動向指数研究会が18年10月を景気の「山」と認定したことだ。12年12月に始まった景気回復期が18年10月に終了し、景気後退期に入った。つまり、安倍晋三首相(当時)の経済政策「アベノミクス」による景気拡大の終了宣言だった。米中貿易戦争の影響で、製造業の輸出や生産が悪化し始めたことが主な理由だった。

   このころの成長率をみると、18年後半は失速したが、19年前半はプラスが続き、政府は毎月、景気は「回復している」との判断を続けていただけに、そうした政府の景気判断と、景気の「山」の判定が食い違うことになった。

   アベノミクス景気は71か月で終わり、「いざなみ景気」(02年2月~08年2月)に2か月及ばず、「戦後最長」を逃したわけで、当時の西村康稔経済財政・再生相は判断が出た後の記者会見で「こうした形で判定されたことは残念」と悔しがった。

   この時の景気動向指数研究会では、一致指数の見直しを求める声も出され、そうした流れの中で内閣府は検討に着手した。今回の新指数は、その課題への答案ということになる。

当面、新指数は参考値と位置づけ...「パフォーマンスの検証など必要」

   新指数について内閣府は「データの蓄積も踏まえたパフォーマンスの検証などが必要」と、慎重な姿勢だ。

   過去の景気判断は覆さないのはもちろん、従来の一致指数はこれまで通り公表し、当面、新指数は参考値と位置づける。新指数が景気動向を適切に反映した数値を示すかを見極め、将来的に現在の指数に代わって、景気判断に使うことも視野に入れている。

   2つの指数が併存することで、景気判断が混乱する懸念も残る。2つが別々の動き、景気の上昇・下降で逆方向の動きを示した場合に、どう判断し、説明していくのか。

   エコノミストからは「データの継続性も問題になる。新しい指数へどの時点で切り替えていくのか、検討すべき課題は多い」との声が出ており、慎重なかじ取りが求められる。

(ジャーナリスト 白井俊郎)

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