中国に変調の兆し
「週刊エコノミスト」(2022年9月13日号)の特集は、「暴走する中国」。3期目を迎える習近平国家主席の長期政権のもと、根深い不安と停滞の兆候が表れ始めているという。
経済・社会の変調に危機感を募らせているのが、中国の富裕層だ。正規の送金手段ではない「地下銀行」を通じて、米国、カナダ、オーストラリアなどに資金を移す「キャピタルフライト(資金逃避)」が活発化しているという。
中国の国際収支統計の「誤差・脱漏」のグラフを示している。2020年以降、大きなマイナス金額(約800億ドル)を示しており、キャピタルフライトが起きていると推察される。
「就職難に強圧的なゼロコロナ政策への不満が若者に募り、共産党体制への失望が広がっている」と城山英巳・北海道大学教授は寄稿している。
16~24歳の失業率は19.3%(22年7月15日発表)。公務員試験の倍率は22年、68倍に達した。就職氷河期を回避し、就職に有利な学位を得られる大学院への志願者も増え、修士課程入試の志願者は11年の151万人から22年には3倍の457万人に達した。
運よく入社できても、「996(朝9時から夜9時まで週6日労働)」という過酷な労働環境に直面する。こうした現実に嫌気が差し、競争を避け、頑張らない「寝そべり族」という若者が増えたという。
共産党が台湾軍事演習のリアルな映像を連日流したのは、若者らのナショナリズムを高め、不満のはけ口を「反米・日」「台湾独立派」に転嫁させると同時に、若者の軍への関心を高めたい意図がある、と分析している。
田代秀敏氏(シグマ・キャピタル代表取締役、チーフエコノミスト)は、「日中デカップリング(分離・分断)こそ日本経済に対する最大級の脅威」と書いている。自動車、ハイテク、ファッション、食品......。多くの分野で日中両国は一大経済圏を築いているからだ。
日中国交正常化50年。日本と中国の力関係は大きく変わった。巨大なパワーを持つようになった中国を冷静に見る視点が今こそ求められているのではないだろうか。
(渡辺淳悦)