ファーウェイとバイトダンスはなぜ強い
それを支えるイノベーション企業の戦略を分析している。米国から槍玉に上がったファーウェイとバイトダンス(北京字節跳動科技)の2社を取り上げ、その強さの秘密に迫っている。
2018年3月、米国は国内の通信網から、中国の通信機器を事実上締め出す規制を検討していると発表した。理由としては、データを盗み出すための「バックドア(裏口)」と呼ばれる不正プログラム技術が、ファーウェイの通信機器に仕組まれているとの疑いがあるとされた。
その後、国防権限法で制限を強化。カナダ司法省が米当局の要請を受け、役員を逮捕。米国は、外国企業も含み、ファーウェイへの半導体供給を遮断する措置を打ち出した。
ファーウェイは厳しい状況に追い込まれ、米国の技術に依存しない製品を作るプロジェクトを立ち上げたという。独自のOSソフト開発を進め、アップル、グーグルに次ぐ第三の極の構築を目指している、として独自の組織や開発手法を詳しく説明している。
意外なのは、トップが2020年8月、新入社員に対して「米国を恨まない」とスピーチしたことだ。「たとえ米国によって叩かれても、米国を学ぶことを変えることはないでしょう」と話したという。
「TikTok(ティックトック)」が世界で一大ブームになった。バイトダンス(北京字節跳動科技)が開発したアプリだが、米中対立の影響を受けて米国では2020年8月、大統領令によって米国内でアプリ使用が禁止された。
安全保障上の脅威や個人情報の不適切な取得といった理由は、「あくまで建前に過ぎない」と李さんは見ている。13歳から35歳の米国人のうち、3割近くがTikTokを利用した経験があり、グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルのGAFAと同じ土俵に立って米国の若者に影響力を及ぼしていることが、米当局を恐れさせたと、推測している。
バイトダンスはソースコードを公開し、米国のセキュリティ審査を受ける用意もあると表明したが、中国政府がAIなどの先端技術の輸出に関する制限措置を発表。まだ結論は出ていないが、いずれ困難を乗り越えて、グローバル企業に成長すると期待している。
最後に、中国のデジタル化から日本が取り入れるべきヒントをいくつか挙げている。
・海外からの優秀な人材の取り込み
・政府によるイノベーションの環境づくり
・公共サービスのデジタル化を先に推進する
・デジタル・ガバナンスの強化
......などだ。
中国のイノベーションの事例を紹介すると、「それは中国だから可能なのでは」という声をよく聞くという。しかし、制度やビジネス環境の違いを理由に「同じようにはできない」と判断せず、学ぶべきことは多いはずだ。
コロナ対策にデジタル技術を導入しようとしたが、失敗続きの日本。体制の違いを理由にいつまでも中国に遅れを取っていいはずがない。本書を読み、強い危機感を覚えた。
(渡辺淳悦)
「チャイナ・イノベーション2 中国のデジタル強国戦略」
李智慧著
日経BP
2420円(税込)