戦争を長引かせているロシアの「二つの無関心」
公益財団法人・日本国際問題研究所研究員の伏田寛範氏も、リポート「長期化するウクライナ戦争―経済制裁のロシア経済・社会への影響の観点から―」(8月12日付)で、ロシアの世論調査を分析。政府系と独立系の、二つの世論調査機関の代表のコメントから、ロシア国民の戦争に対する考え方を浮き彫りにした。
伏田氏によると、プーチン大統領が高い支持率を集めている現状を、政府系世論調査機関の全ロシア世論調査センターのワレリー・フョードロフ所長は「ドンバス・コンセンサス」と名付けたという。「ドンバス」とは今まさに紛争の焦点になっているウクライナ東部のことだ。
「フョードロフ所長は、この「ドンバス・コンセンサス」の背景には、(1)2014年のクリミア併合以降、ロシアは西側の制裁を受け続けているが、その『ニューノーマル』の現状を国民は受け入れており『制裁慣れ』している。
(2)今回の制裁にしても現時点では市民生活にそれほど大きな影響が出ていないために、人々には今回も危機を乗り越えられるにちがいないといった「自信」がある、といったことに加え、(3)ロシア国民はこれまでのプーチンの外交政策の『実績』を買っており、今回の戦争についても『自分たちにはとうてい理解の及ばない、プーチンの奥深く正しい判断に違いない』と考えている、といった要因があるのではないかと述べている」
一方、独立系世論調査機関の代表はどう見ているのか。
「独立系世論調査機関のレヴァダ・センターのレフ・グトコフ研究部長は、人々は日々の生活をどうするかで精いっぱいで政治や戦争に関心が向かっておらず、こうした人々の『無関心』が結果的にプーチン政権とその政策を支えているのだとみている。
だが、制裁の影響が現実味をもって感じられるようになれば、人々は『無関心』ではいられず、いずれは政権批判につながっていくだろうと同研究部長は指摘する」
いずれにしても、日々の生活で精いっぱいという「無関心」と、「これまでのプーチンと同様、今回の戦争もきっと正しいに違いない」といった他人任せの「無関心」という、二つの「無関心」が戦争を長引かせているというのだ。