「奴隷労働」などと批判される技能実習制度について、政府はようやく見直しに動き始めた。
「国際協力」を目的に掲げるが、実態は労働力を安いコストで調達する手段として使われてきたという「制度の趣旨と運用実態の乖離(かいり)」(古川禎久・前法相)は明らかで、低賃金や長時間労働、劣悪な労働環境が問題になってきた。
政府は早ければ今秋にも有識者会議を立ち上げ、検討を始める。
違法な長時間労働、賃金不払い、妊娠・出産の問題も
技能実習生は、日本で就労できる在留資格の一つで、2021年末時点で約28万人がさまざまな職種で働いている。
日本で技能を身に着け、母国に戻って生かしてもらう国際貢献の制度という趣旨で1993年にスタートした。しかし、実態は、農業や介護など日本人の働き手が集まりにくい業界に、低賃金で労働力を供給する手段になっている。
実際、違法な長時間労働や賃金不払いなど、技能実習を巡るトラブルは絶えない。
厚生労働省によると、労働関係法令違反の事業所は2021年に6556件にのぼり増加傾向だ。22年1月には岡山市で、日本人の同僚から2年にわたって暴行を受けていたケースが発覚した。
妊娠や出産に関する問題もある。
妊娠や出産を理由とした不当な取り扱いは男女雇用機会均等法で禁じられ、実習生にも適用される。
だが、妊娠や出産した際に、実習先企業や受け入れを仲介する監理団体などから、帰国を迫られる不適切な事例が後を絶たず、「妊娠した場合は帰国する」との誓約書に署名させられる悪質なケースもある。
妊娠した女性実習生が強制帰国や解雇を恐れて周囲に相談できず、出産後に死体遺棄容疑で逮捕されるという事件も起きた。
米国務省年次報告...日本の人身取引撲滅の取り組み、「最低基準満たさず」
こうした問題の背景には、原則3年間は転職ができず、労働者として立場が弱いという構造がある。
実習生は母国の送り出し機関に多額の手数料を支払い、数十万円といった多額の借金を背負って来日するケースが少なくない。不当な仲介料をとるブローカーも後を絶たない。
また、実習先を変更できないため、劣悪な環境下でも仕事を続けざるを得ない状況もある。そのため、耐えられずに逃げ出して失踪する人が絶えず、2021年は7167人にのぼった。
政府は雇用している企業への監督を強化してきたというが、実効性は上がっていない。
たとえば、米国務省が世界の人身売買に関する年次報告書を毎年発表しているが、22年7月19日の最新版は、日本政府の取り組みについて「人身取引撲滅のための最低基準を十分には満たしていないが、満たすべく相当の取り組みを実施している」と、微妙な評価だ。
くわえて、具体的に技能実習制度について、
「日本国内にいる移住労働者の強制労働の報告は、政府が特定した数よりも多かった」「政府と送り出し国との協力覚書は、借金を理由に技能実習生を強要する主な要因の一つである外国に拠点を持つ労働者募集機関による過剰な金銭徴収を防止する上で効果を発揮しておらず、政府は同制度の下、募集を行う者と雇用主に対して、労働搾取目的の人身取引犯罪の責任を課す対策を全く講じなかった」
などと指摘している。
「移民政策とらない」政府見解、労働力不足補う「外国人材」...建前と本音の矛盾解消を
政府はこうした海外の目も意識し、2019年4月、外国人材の受け皿として、転職の自由もある「特定技能制度」を設けた。
人手不足が顕著な介護や建設、農業など14業種を対象に、技能水準や日本語能力などによって、特定技能1号(最長5年・家族帯同不可)、同2号(期限なし・家族帯同可)を設け、業種ごとに受け入れ人数(5年間で計約34万人)を定めている。
特定技能制度が発足した当時から、人権侵害と批判される技能実習を廃止して、特定技能に統合すべきだとの声がある。一方で、特に「特定技能2号」について、自民党保守派などから「事実上の移民解禁だ」と警戒する声が上がる。
今回の見直しは、「移民政策はとらない」という安倍晋三政権時代からの政府の公式見解と、労働力不足を補うために実態として「移民」を受け入れているという、建前と本音の矛盾が解消できるかが焦点になる。
現在も技能実習から特定技能への移行が可能だが、日本語能力などハードルは高いといわれ、スムーズに移行できるようにするための政府の支援なども求められる。
「企業が外国人を低賃金で働かせるようなやり方は、国際的に通用しない。こんなことを続けていては、世界から批判を浴び、日本の産業は立ちゆかなくなる」(読売新聞8月20日社説)など、移民反対の産経新聞を除くと、大手紙各紙は技能実習の抜本的な見直しの必要で共通。日経新聞(8月12日社説)や朝日新聞(8月5日社説)は、技能実習の廃止、特定技能への一本化を明快に求めている。
少子高齢化、人口減少で労働力不足はさらに深刻になっていくのは避けられない。その中で、「課題を先送りすれば、世界での人材獲得競争に後れを取るばかりだ」(日経新聞社説)。
のんびり構えている時間はない。(ジャーナリスト 白井俊郎)