今年度「賃上げした企業」コロナ前の8割超に回復! でも、賃上げ率「3%以上」中小企業が大企業より1.7倍多いのはなぜ?

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   今年(2022年)度、定期昇給やベースアップ増額、初任給引き上げなど何らかの賃上げをした企業の割合が、昨年度を大きく上回り、全体の8割以上にのぼったことがわかった。

   東京商工リサーチが8月23日に発表した「賃上げに関するアンケート調査」で明らかになった。

   しかし、岸田文雄政権が目標に掲げた「3%以上の賃上げ」を行ったのは、大企業よりむしろ中小企業のほうが1.7倍多いという不思議な結果になった。いったい、苦しいはずの中小企業がなぜ......?

  • 賃上げ率がやっと8割に回復したが…(写真はイメージ)
    賃上げ率がやっと8割に回復したが…(写真はイメージ)
  • 賃上げ率がやっと8割に回復したが…(写真はイメージ)

賃上げ実施...大企業88%、中小企業82%

   東京商工リサーチの調査によると、賃上げを「実施した」のは82.5%で、前年(2021年)度の70.4%から12.1ポイント上昇した。コロナ前の2019年度の80.9%と比べても1.6ポイント上回り、調査を開始した2016年度以降では、安倍晋三政権下の「官製春闘」だった2017年度(82.7%)に次ぐ、2番目に高い水準となった=図表1参照

(図表1)年度別の賃上げ動向推移(東京商工リサーチの作成)
(図表1)年度別の賃上げ動向推移(東京商工リサーチの作成)

   規模別「実施率」では、大企業が88.1%だったのに対し、中小企業が81.5%で、6.6ポイントの差がついた。大企業は10産業すべてで中小企業を上回った。規模間の格差が広がる一方で、人手不足が深刻化するなか、今後は中小企業の人材確保に影響を与えることも懸念される。

   産業別にみると、「実施した」割合が最も高かったのは製造業(87.2%)で、以下、卸売業(84.5%)、建設業(83.7%)、情報通信業(81.1%)と続く。一番低かったのは、中小・零細企業が多い農・林・漁・鉱業(60.7%)だった。金融・保険業(67.3%)と不動産業(67.5%)を合わせた3産業は、実施率が6割台にとどまった=図表2参照

(図表2)2022年度の賃上げ状況(業種別)(東京商工リサーチの作成)
(図表2)2022年度の賃上げ状況(業種別)(東京商工リサーチの作成)

「ベースアップ」実施率、3年ぶり40%台に

   さて、実際に賃上げした項目はなんだったのか。

   「実施した」と回答した企業に内容を聞くと(複数回答)、最多は、「定期昇給」(81.0%)で、次いで「賞与(一時金)増額」(44.2%)、「ベースアップ」(42.0%)、「新卒者の初任給増額」(18.2%)の順だった=図表3参照

(図表3)賃上げの内容(東京商工リサーチの作成)
(図表3)賃上げの内容(東京商工リサーチの作成)

   前年(2021年)度と比べ、「定期昇給」は2.1ポイント低下した。だが、「賞与(一時金)増額」は6.5ポイント、「ベースアップ」は11.7ポイント、とそれぞれ上昇した。働く人にとって「ベースアップ」が一番ありがたく、また企業にとっては一番の負担といわれるが、物価上昇などを背景に、「ベースアップ」を実施した企業は2019年度以来、3年ぶりに40%台に乗せた。

   ところで、今年の春闘前に岸田文雄政権は経済界に「3%以上の賃上げ」を要請していたが、実際の賃上げ率はどうだったのか。

   「実施した」と回答した企業に1%単位の区切りで賃上げ率を聞くと、最多は「1%以上2%未満」(33.4%)で、次いで「2%以上3%未満」(31.9%)、「3%以上」(30.2%)、「1%未満」(4.5%)となった。

   つまり、「1%未満」を含んだ「賃上げ率3%未満」は69.8%で、実施企業の約7割が3%未満の賃上げにとどまったわけだ。

賃上げの原資は大企業のほうが豊富なのに、「賃上げ率3%以上」は中小企業が多い(写真は大企業の本丸、経団連会館)
賃上げの原資は大企業のほうが豊富なのに、「賃上げ率3%以上」は中小企業が多い(写真は大企業の本丸、経団連会館)

   規模別にみると、不思議な結果が目を引く。賃上げ率「3%以上」は大企業が賃上げした企業全体の18.4%に対し、中小企業は31.6%に達し、逆に、中小企業が13.2ポイントも上回ったのだ。約1.7倍も多い。これはなぜか。

   東京商工リサーチでは、

「大幅賃上げは中小企業の収益圧迫が危惧されるが、経済活動の本格再開で人手不足が懸念されており、人材確保のためにも賃上げせざるを得ない中小企業の姿が浮かび上がる」

と、分析している。

中小企業は人件費の吸収が難しい状態続く

景気は回復したのか?(写真はイメージ)
景気は回復したのか?(写真はイメージ)

   今回の調査結果について、東京商工リサーチはこうコメントしている。

「2022年度の『賃上げ実施率』は82.5%で、前年度の70.4%を12.1ポイント上回った。コロナ前の2019年度(80.9%)を超える水準に戻したが、製造業などの業績回復だけでなく、断続的な物価上昇も影響したとみられる。
コロナ禍で業績への影響を克服できていない企業は賃上げが難しく、賃上げ実施率は規模や業種により濃淡が出た格好だ」

と、物価上昇によりやむなく賃上げに踏み切った企業が多いと分析。そのうえで、

「特に、燃料費高騰と人手不足の影響が深刻な運輸業は、大企業の95.2%が賃上げを実施したが、中小企業の実施率は73.9%にとどまった。体力のある大企業は、人手確保のため賃上げに踏み出しているが、燃料費の高止まりや価格転嫁の遅れで収益を圧迫されやすい中小企業では、賃上げ実施の余力が乏しい企業も少なくない。
『新しい資本主義』では賃上げが重要課題に浮上しているが、中小企業は人件費の吸収が容易でない状態が続くだけに、包括的な支援が必要になっている」

と中小企業に対する支援を求めた。

   調査は、2022年8月1日~8月9日にインターネットによるアンケートを実施、有効回答6204社を集計、分析した。賃上げの定義を「定期昇給」「ベースアップ」「賞与(一時金)増額」「新卒者の初任給増額」「再雇用者の賃金増額」とした。また、資本金1億円以上を「大企業」、1億円未満(個人企業を含む)を「中小企業」と定義した。

(福田和郎)

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