「甘える金融市場にトドメの一発を放った」
エコノミストたちは「パウエル発言」をどう読み解いたか。
「甘える金融市場にトドメの一発を放った」とみるのは、第一生命経済研究所主任エコノミストの藤代宏一氏だ。
藤代氏リポート「金融市場に『優しいFed』の面影はない 利下げ観測を蹴散らしたパウエル議長」(8月29日付)の中で、こう指摘した。
「マクロ指標の下振れが相次いだ6月下旬から7月末にかけては、FRBが景気に配慮して2023年前半に利下げを開始するとの見通しが共有され、米10年金利は3.5%から2.6%まで低下し、それを追い風に米国株は上昇する場面があったが、パウエル議長はそうした早期利下げ観測を蹴散らした形だ。今や金融市場に配慮し、タカ派発言をオブラートに包んでいた頃の『優しいFed(米連邦準備制度)』はその面影はない」
今後の利上げペースはどうなるのだろうか。金融市場では、9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、0.75%から0.5%に引き締め速度を落とす、との見方が大勢を占めていたが、藤代氏は「考えにくくなった」とこう説明する。
「コア物価(PCE、CPI)は直近数か月伸び率が鈍化しているとはいえ、まだそれほど明確ではなく、また家賃や賃金上昇率が高止まりしていることを踏まえると、インフレ鈍化に確信を持てる状況にはない。(中略)利上げ幅縮小が本格的に検討されるのは11月FOMCになるだろう。もちろんエネルギー価格の動向次第ではあるものの、その頃にはインフレ鈍化を示すデータが増加し景気後退の足音も大きくなっていると思われる」
つづいて、FF金利(誘導目標レンジ上限)はどうなるのか。
「12月は4.00~4.25%で着地するのではないか。2023年は利上げ休止もしくは4.5%程度まで利上げが想定される。(中略)ややタカ派なシナリオであるが、パウエル議長の発言に鑑みると妥当な経路に思える」
「4.5%への到達が市場参加者の見通しにアンカーされれば、10年や30年金利が6月水準を超えても不思議ではない。そうであれば、金利低下を追い風に楽観的な雰囲気に包まれてきた株式市場は再度逆風に晒される。
S&P500は8月12日に1月の高値から6月安値までの下落幅の半分を取り戻す『半値戻し』を達成し、そのこと自体が楽観論に拍車をかけていたが、そうした雰囲気をFedはよしとしなかった。業績見通しが慎重化する中で再度金利上昇に見舞われれば、『半値戻しは全値戻し(を達成する)』との相場格言に疑問を投げかけるのではないか」
と、金融市場に警鐘を鳴らした。