「見捨てない金融」の好例...広島の地域金融エコシステム
後半は、「見捨てない金融」に焦点を当て、驚異のスピードで融資決済をする広島市信用組合などを紹介している。
「シシンヨー」と呼ばれる同信組の融資決済は、3日以内だ。多くの金融機関では、稟議書作成、決裁印、会議、担保手続き、信用保証協会の手続きと数週間はかかるのに、なぜそんなに早く決済が可能なのか?
全国のサービサー(債権回収会社)を活用して不良債権をまとめて売却する「バルク売却」を活用。回収業務を捨て去るという思い切ったビジネスモデルの特化に踏み切ったことを挙げている。
広島銀行が100%出資した「しまなみサービサー」が、広島の地域金融エコシステムを支えているという。広島銀行から債権の管理・回収を受託しつつ、収益のほとんどを広島銀行以外からの債権買い取りによって稼ぎ出しているのが特徴だという。
さらに、事業再生も手掛けているのが特徴だ。破綻状態にはないものの、融資契約通りに返済が困難になった債権「危険債権」を買い取り、事業再生のサポートやリファイナンス」に力を入れている。
しまなみサービサーに債権を売却された企業に対して、その返済資金を融資し、事業再生につなげているのが広島県信用組合だ。サービサーを介したエコシステムが機能しているのが広島の地域金融の強みだ、と指摘している。
このほか、中小企業の再生に取り組む京都信用保証協会や営業ノルマを排した京都信用金庫などを紹介している。
ビジネス誌に登場するのはメガバンクや地銀の話が多い。第二地銀や信金・信組にふれた本書によって、地域金融の姿がほんの少し垣間見えたような気がする。
橋本さんは、いま地方経済の問題は、「オーバーバンキング問題」に集約されて論じられているが、果たしてそうか、と問題提起する。地域金融機関を必要とする事業者は少なくない。コロナ禍のいま、その役割はさらに増しているのではないだろうか。
(渡辺淳悦)
「金融排除」
橋本卓典著
幻冬舎新書
924円(税込)