本書「金融排除」(幻冬舎新書)のタイトルを見て、初めて「金融排除」という言葉を知る人も多いだろう。
担保と保証がない事業者に金融機関が貸し出さないことを指すが、顧客基盤が先細り、自らの収益力さえも失いつつある地方銀行や第二地銀、信金信組の問題につながっているという。
銀行取引のない世界とはどのようなものか。そこから回復した実例を紹介、事業者と金融機関双方に示唆を与える内容だ。
「金融排除」(橋本卓典著)幻冬舎新書
著者の橋本卓典さんは共同通信社経済部記者。金融庁などを担当。著書に「捨てられる銀行」などがある。
「救う金融があれば、人は何度でも立ち上がれる」
本書の最大の特徴は、地方の多くの事業者の実例を紹介していることだ。
肥料、農薬(酢以外)、除草剤を使用しない自然栽培による「奇跡のリンゴ」で知られる青森県の木村秋則さんを支えたのは、みちのく銀行のある行員だった。
収入ゼロ、失敗を重ねるリンゴの自然栽培には何の見通しもない。他行からは「排除」された木村さんの熱意に負け、最適のアドバイスをして、融資を続けた。橋本さんはこう書いている。
「捨てる金融があったとしても、救う金融があれば、人は何度でも立ち上がれる」
こんな実例もある。
愛媛県今治市のタオルメーカー「IKEUCHI ORGANIC」は、オーガニック・コットン製品で知られるが、10年に及ぶ「金融排除」を経験した。売り上げの9割を占めるOEM(相手先ブランドによる生産)のうち、主要な卸先が倒産したため、代金が回収できず、民事再生法の適用申請を余儀なくされたのだ。
メインバンクの支店長が変わると態度は豹変し、見捨てられた。一切の借り入れができなくなり、前金の支払いに応じてくれる取引先からの資金で、自転車操業を続けた。OEMを辞め、自社ブランドに絞り、付加価値の高い製品をつくることで、投資会社からの出資を受け、生き延びた。
こうした実例を読むと、金融機関の「人」によって、貸し出す=「金融包摂」、貸し出さない=「金融排除」が行われているように思えるが、実態はどうだろうか?