専門家も「議論必要」「100年の計がおろそか」と賛否
専門家の間でも賛否は分かれる。
日本エネルギー経済研究所常務理事の山下ゆかり氏は、朝日新聞紙上で「エネルギー確保、議論急務」と賛意を示し、
「政府はこれまで、将来的にエネルギー政策に原子力をどう位置付けるかをあいまいにしてきた。原発依存度を低減すると言いつつ、必要な規模を持続的に活用するという方針は、ブレーキを踏みながら車を加速させるようなもので、やや矛盾した表現だった」
と、政府の方針転換を評価した。そのうえで、
「資源に乏しい日本の戦略の根本は、いかに安定供給を確保するかだ。(中略)ウクライナ危機を受け、この原点に立ち返った考えた場合、原子力というオプションをあいまいにしていいのか。新しい技術も俎上にのせ、新増設やリプレースの是非を議論することは重要だ」
また、経済界にとっても大きな影響があるという。
「原発関連の技術を維持してきた企業にとっても力強いシグナルになる。かつて業界を支えた技術者は引退のする時期にさしかかっているが、これから研究者をめざす学生にとって就職先や研究技術を磨く場が確保されるという展望が開けた」
一方、龍谷大学教授(環境経済学)の大島堅一氏は、毎日新聞紙上で「突然の方針転換、乱暴」だと反対の立場を表明した。
「政府は昨秋、国のエネルギー中長期方針を見直したばかり。十分な検討をした形跡もないままに、ウクライナ危機による電力ひっ迫などを理由に1つの会議で突然、方針を覆す手法はあまりに乱暴だ」
と、批判したうえで、電力業界の発展のためにも問題があるとした。
「今回の会議では、原発を活用しやすくする『事業環境整備』の検討方針も示された。要は政府による電力会社に対する補助制度だ。対象になるのは事実上、原発を手がける大手だけになる。新規参入した電力会社との格差が広がり、市場をゆがめかねない」
そして、短期的な資源価格の変動だけで「100年の計」をおろそかにしていいのかと、こう訴えたのだった。
「原発は建設から稼働、廃炉完了まで約100年かかる。短期で変動する足元の資源価格をもとにした判断は、再生可能エネルギーの普及など他の投資への選択肢を狭めてしまう。
新規稼働までの時間を考えれば、脱炭素への貢献も限定的だ。放射性廃棄物の処分など解決が必要な課題も多く、活用拡大は慎重に判断するべきだ」
(福田和郎)