鉄道需要はコロナ禍前の8割までしか回復しない
「週刊エコノミスト」(2022年8月30日号)の特集は、「鉄道150年 復活の条件」。日本の鉄道は、この秋に150周年を迎える。しかし、コロナ禍と人口減少で鉄道業界は深刻な打撃を受けた。回復を図る動きをまとめている。
明るい材料としては、9月に西九州新幹線武雄温泉(佐賀県)~長崎間の開業が控えている。ほかに、23年3月までには、相鉄・東急新横浜線が開通し、相鉄線と東横線がつながる。渋谷から新横浜まで乗り換えなしで行けるほか、相鉄線沿線から渋谷や目黒を経由して、複数の地下鉄路線へ接続できるようになる。
福岡では市営地下鉄七隈線が天神南駅から博多駅まで延伸される。また、宇都宮ライトレールも今年度中の開業を予定しており、宇都宮市東側の交通の利便性が大きく向上する。
それでも、鉄道需要はコロナ禍前の8割までしか回復しないというのが鉄道業界の共通認識になりつつあるという。地方の鉄道需要の減少は、コロナ禍以前に、人口減少、地方の経済の衰退によるもので、鉄道会社で対応できる範疇を超えている、と指摘する。
これまで公表してきたJR北海道、JR九州に加え、今年に入って、JR西日本とJR東日本が路線別の経営状況を公表した。ただちに路線廃止の議論に入るものではないが、国や自治体が鉄道を地域でどう位置づけるかが求められる、としている。
鉄道網を維持するためには、鉄道を観光資源ととらえ、乗ること自体が目的となるように魅力を高めていく必要がある、という論考を寄せているのは、大塚良治・江戸川大学准教授だ。
一例として、アニメ「ガールズ&パンツァー」を利用した茨城県大洗町と鹿島臨海鉄道の試みなどを紹介している。こうした努力を続けるとしても、輸送密度による存廃基準(輸送密度1000人未満がバス転換の目安)からは逃れられない。
しかし、実際には野岩鉄道会津鬼怒川線(福島県~栃木県)や会津鉄道会津線(福島県)など、輸送密度1000人以下でも存廃議論が起こらない路線もある、と指摘する。両社線ともに、会津地方と首都圏を結ぶ重要路線と位置付けられているためだ。
大塚氏は「鉄道存続の論理はいかようにも作り出せることを示している」として、ローカル線を存続させるための新しい論理を作り出すことを提案している。
(渡辺淳悦)