先行するIBM...2023年、実用化のターニングポイントか
当のIBMの製品開発ははるか先を進んでおり、2023年には1121量子ビットの製品をリリースする予定で、「創薬」など一部分野では実用化が期待されている。
しかし、小林さんは額面通りに受け止めることはできず、一般人にも理解できる何らかの実用的メリットが証明されなければ、ブームもしぼんでしまう恐れもある、と冷静に見ている。
もしも本格的な量子コンピュータが実現すれば、ネットショッピングや銀行のATM、あるいはビットコインのような暗号通貨で使われている従来の暗号技術が容易に破られてしまう。
そのため、ITや金融業界のほか、安全保障の分野でも深刻な懸念を呼んでいる。逆に言えば、他国に先駆けて開発に成功すれば、強力なアドバンテージを得るため、米国や中国は日本とは桁違いの資金を投入している。
自動車や金融、化学、製薬、AI、メタバースなど各分野での応用にも言及している。だが、量子コンピュータが実際にどんな問題が解けて、何が解けないかは現時点では明確に定まったいないという。実用に供する本格的なマシンが存在しないからだ。
ほかにも本書では、量子力学の基本的法則に始まり、量子ビット、量子ゲートなど量子コンピュータがはたらく仕組みについて、行列やベクトルなど数学を使い、解説している。理系の人であれば、数式を使った説明にある程度ついていけるのではないだろうか。
しかし、原理がわからなくても、実現すれば人類に大きなインパクトを与えるものであることは理解できる。小林さんは
「量子コンピュータは人類の科学技術、いや文明を次なるフェーズへと導く歴史的な発明だ。ちょうど古代の人類が青銅器から鉄器時代への移行したような、いや恐らくそれ以上に大きな意味とインパクトを世界にもたらすだろう」
と予測している。
そして、そのようなパワフルな超高度技術を適切に管理し、平和的に使いこなせるほどの倫理水準に人類はあるのだろうか、と問題提起している。
(渡辺淳悦)
「ゼロからわかる量子コンピュータ」
小林雅一著
講談社現代新書
924円(税込)