グーグルの成功で開発に弾み
ここに光が差し込む。2015年、グーグル量子AI研究所のマルティニス教授らのチームが、「射影的量子計測」という手法を使い、全体で9量子ビットという極めて小さな量子計算システムで、その誤りを訂正することに成功したのだ。
しかし、この方式で将来、実世界の問題に適用できる本格的な量子コンピュータを開発するには、誤り訂正用に非常に多くの量子ビットが必要になることがわかった。
それでも「誤り訂正」問題への基本的な解決策が示されたことで、世界の量子コンピュータ開発に大きな弾みがついたという。「作れるはずがない」と諦めていた科学者たちが、グーグルの参入を機に、手のひらを返したように、開発に本腰を入れ始めたのだ。
各国の政府も巨額の予算をつぎ込み、支援を始めた。日本も2039年の実用化をめざす「量子コンピュータの開発ロードマップ」を盛り込んだ国家戦略案をまとめた。
たとえば、各地の大学など主要な研究機関に開発拠点を設けることにした。関連予算は2019年度160億円から20年度には340億円、21年度には360億円、さらに2022年4月には内閣府の「統合イノベーション戦略推進会議」で、国産の量子コンピュータの初号機を22年度内に整備する目標を掲げた。
川崎市の「かわさき新産業創造センター」で稼働を開始した「IBM Q」は、27量子ビットとまだ試験機レベルの製品だが、東京大学を中心とした協議会では、将来、もっと実用的な量子コンピュータが本格的に普及する時代に備え、習熟した人材を育成することを目的にしている。