量子コンピュータは本当に実現するのか?

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   最近、「量子コンピュータ」という言葉をよく耳にする。世界最速級のスーパーコンピュータでも数万~数億年もかかるような計算をわずか数分でやり遂げる、「夢の超高速計算機」との触れ込みだが、本当に実現できるのか?

   本書「ゼロからわかる量子コンピュータ」(講談社現代新書)は、その原理から課題、開発状況を解説した、格好の入門書である。

「ゼロからわかる量子コンピュータ」(小林雅一著)講談社現代新書

   著者の小林雅一さんは、KDDI総合研究所リサーチフェロー、情報セキュリティ大学院大学客員准教授。専門はITやライフサイエンスなど先端技術の動向調査。著書に「AIの衝撃 人工知能は人類の敵か」「『スパコン富岳』後の日本 科学技術立国は復活できるか」などがある。

難航する研究開発

   2021年5月、米アルファベット傘下のグーグルが、カリフォルニア州サンタバーバラに「量子AIキャンパス」を開設した。また、10月には米アマゾン・コムが同州パサデナに新たな研究拠点を設け、「量子コンピュータ」の自主開発に乗り出すなど、急速に量子コンピュータへの投資と開発が進んでいる。

   ところが、こうした急激に高まる期待に反し、米国のビッグテックを中心とする量子コンピュータの研究開発は難航している、と小林さんは指摘している。

   IBMなど一部企業はすでに100個以上の量子ビットを備えたマシンを開発したが、それらの製品は一種の試験機に過ぎず、現実世界の諸問題を解決する実力はないというのだ。

   従来のコンピュータには、主にハードウェア的な要因から発生する計算の誤りを自動的に訂正する機能が備わっているが、量子コンピュータでは、そうした「誤り訂正」の理論は存在するが、技術的には確立されていないという。

   米マイクロソフトが欧州との大学との共同研究で一時、ブレークスルーをもたらすかと期待されたが、2020年、それを科学的に証明するはずの論文に誤りが指摘され、撤回に追い込まれた。

   開発が難しい根底には、量子コンピュータのベースとなる量子力学の本質があるという。量子コンピュータの素材として使われる電子や光子など量子には、「量子重ね合わせ」という現象がある。一つのモノが同時に異なる状態を取り得ることを指す。

   従来のコンピュータでは、そのデータを構成する各ビットが0か1かのいずれかを表す。これに対し量子コンピュータは、従来のビットに対応する量子ビットが同時に0と1の両方の状態を取り得るのだ。この二重性は「量子重ね合わせ」から生まれている、と説明する。

   本書では、これまでの量子コンピュータの開発の歴史を振り返りながら、その難しさを解説している。量子コンピュータを実現するには、この「量子重ね合わせ」と「量子もつれ」という現象を組み合わせて使う必要があるという。

   これは、同時に「1」と「0」の両状態を取り得る量子ビットが、何個ももつれあって互いに影響を及ぼし合いながら変化するしくみだ。

   「量子重ね合わせ」と「量子もつれ」を同時に実現することは技術的に困難を極め、たとえ成立しても、その状態は数マイクロ(100分の1)秒程度で破綻して、計算結果に誤りが生じてしまうという問題があった。

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