気になる「長期金利」の上昇傾向...それにともない、「住宅ローン金利」今後どうなる? 専門家が解説【2】(中山登志朗)

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   周知のように、ロシアのウクライナ侵攻を契機として、サプライチェーンが世界的に逼迫・弱体化しています。

   それにともない、エネルギーおよび資材価格、食糧価格の高騰を招いたことによって、国内でも消費者物価指数が上昇、インフレを誘発しています。

   こうした世界情勢を背景に、長期金利は上昇傾向です。それは今後、「住宅ローン金利」にどのような影響を与えるのでしょうか。

2022年に入ってから、「住宅ローン固定金利」が上昇し始めている

   <気になる「長期金利」の上昇傾向...それにともない、「住宅ローン金利」今後どうなる? 専門家が解説【1】(中山登志朗)>の続きです。

   少しさかのぼると、2021年末に0.045%で推移していた長期金利は、年明け早々に0.1%台に上昇し、その後は0.2%前半で推移して、6月以降の0.25%超えにも達してしいました。

   この間、1.3%前後で推移していた「住宅ローン35年固定金利」は1.5%台に上昇しています。同様に、5年固定金利は0.8%前後から1.0%前後へ、10年固定金利も0.8%超の水準から1.1%前後へと、各々上昇しています。

   この短期間での長期金利の急激な上昇は、7月の後半から8月にかけて、アメリカの実質金利が低下傾向にあることから、落ち着きを取り戻し始めています。

   ところが、依然として、世界的な経済情勢の変化によって、イールドカーブ・コントロールが日銀の意図した通りに操作できないという状況が起き得ることを示しています。

   ですから、住宅ローンをこれから申請しようと考えている住宅購入予定者は、世界情勢を頭の片隅に入れながら住宅ローン商品を選択する慎重な姿勢が求められます。

安定的に推移している「住宅ローン変動金利」

   一方、住宅ローンの変動金利は、短期金利と連動しています。そのため、長期金利が上昇基調で推移しても一向に変化する様子はなく、過去5年程度を俯瞰しても、住宅ローン変動金利は0.4~0.5%の水準で極めて安定的に推移しています。

   現状では、長期金利が最低でも2%前後の水準に達しなければ、短期金利の上昇は見込めません。ですから、日銀の金融緩和策が継続する限り、変動金利の上昇はないとほぼ断言できる状況です。

   このように、住宅ローンの固定金利は比較的変動しやすく、変動金利は変動しにくいという、名称とは反対の表現が当てはまるのです。 固定金利は、借り入れた時以降は金利が変わらない、という意味であり、借り入れる以前のボラティリティ(値動き:ここでは金利変動リスクのこと)は相応に大きく、変動金利のボラティリティは極めて小さいと認識しておくべきでしょう。

   住宅ローンの金利は、黒田総裁の任期満了後(2023年4月以降)も、基本的には金融緩和策の維持・継続によって、低位に据え置かれる公算が高いと考えられます。

   しかしながら、住宅ローンを組むうえで唯一の不安要素は、この6~7月に発生した、「指し値オペ」でも回避しきれない長期金利の上昇です。

   日銀が恣意的に金利上昇を抑制しようとしても、市場の反発で抗し切れない事態は、今後も発生する可能性はあります。

   そのため、住宅ローンを申し込むのであれば、変動金利で借り入れるのが、現時点での最良の選択といえます(ほかには、元利均等ではなく、元金均等返済のほうが返済総額をやや低く抑えることが可能であることも知っておいてください)。

   金利が上昇するかもしれないリスクに常にさらされている「住宅ローン固定金利」と、金融緩和下ではほぼ上昇することが想定できない「住宅ローン変動金利」。返済を継続するうえでは、金利水準自体も重要なポイントですが、その特性を理解したうえで、戦略的に住宅ローンの申し込みをしたいものです。

(中山登志朗)

中山 登志朗(なかやま・としあき)
中山 登志朗(なかやま・としあき)
LIFULL HOME’S総研 副所長・チーフアナリスト
出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。
2014年9月から現職。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任する。
主な著書に「住宅購入のための資産価値ハンドブック」(ダイヤモンド社)、「沿線格差~首都圏鉄道路線の知られざる通信簿」(SB新書)などがある。
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