増収の模索へ...新しい輸送サービスの可能性
コスト削減にとどまらず、余力を活用して、少しでも収益を増やそうという模索も行われている。
新しい輸送サービスとして、JR東日本は2021年4月に北海道・東北新幹線を活用した鮮魚・駅弁輸送を開始した。JR九州も2021年5月から九州新幹線を使って、博多と鹿児島中央の間で、企業や個人の荷物を輸送するサービス「はやっ!便」に取り組んでいる。リモートワーク需要を取り込むコワーキングスペースの提供も各社が行っている。
需要喚起のため、全区間小児50円均一という画期的な運賃を設定した小田急のように、値下げした鉄道会社はごく少数だ。多くの鉄道会社は、コロナ禍による減収を埋めるための施策として値上げを検討、一部実施した。
また、JR東日本はピーク時の運賃を高く、オフピーク字を安くする、時間帯別の運賃を検討しているという。
「首都圏の鉄道会社は、混雑緩和のために巨額の投資を行ってきたので、ピークカットができれば、さらなる投資が必要なくなるという発想」と佐藤さんは説明する。
◆JR九州「西九州新幹線」、9月開業へ
本書ではこのほか、「ヨーロッパで起こった鉄道事業の新自由主義化」「規制緩和の波が日本へ」「鉄道をめぐる新たな政策課題」など、鉄道をめぐる政策についても章を割いている。
暗い話題ばかりになってしまったが、これから開通する新たな路線にも触れている。
JR羽田空港アクセス線、相鉄・東急直通線、大阪のなにわ筋線、北大阪急行の延伸などである。経済の起爆剤になるか、と期待している。
直近の話題としては、9月23日開業予定のJR九州の西九州新幹線がある。長崎駅から佐賀県の武雄温泉駅まで、約66キロの短い新幹線で、博多とは途中、武雄温泉駅で乗り換えなければならない。なんとも不幸な時期のスタートとなったが、鉄道ファンの一人として、幸多かれと願わざるをえない。
(渡辺淳悦)
「鉄道会社はどう生き残るか」
佐藤信之著
PHPビジネス新書
1023円(税込)