6月、7月に相次いで、「おとり広告」という景品表示法違反行為が発覚した回転寿司チェーン大手スシロー。同社は、22年9月期の決算見通しで、営業利益が前期比で63%の減益になるとの下方修正情報を発表しました。
これは金額ベースで従来予想から75億円もマイナスに振れた、大幅な予想修正です。その要因として同社は、水産物の仕入れコスト増と足元での売上低下をあげています。
6月、7月の前年比業界売上...スシロー、ひとり負けに
スシローの不祥事は、最初がウニ、イクラなど高級ネタの「目玉商品」を謳ったチラシ掲載商品が、十分な入荷がないままキャンペーンをスタートさせ、相次ぐ品切れに多くのクレームが寄せられた、というものでした。
公正取引委員会はこれを「おとり広告」と判断し、措置命令を出しています。なかには、全く商品の入荷がなかった店もあるといいますから、「確信犯」ではなかったかと大きな話題にもなりました。
その一件のほとぼり冷めぬ翌7月に今度は、生ビール半額のキャンペーンポスターを店頭に掲出したものの、実はキャンペーン開始前の予告であり、生ビールの定価代金を徴収していた店が複数あった、という問題が発覚します。
この問題はさらに、この10日ほど後に実際に生ビールキャンペーンがスタートすると、またも寿司ネタ「目玉商品」の時と同じく、生ビールが早々品切れになった店が続出。しかも、一部店舗では、開店直後に品切れしていたといいます。
この度重なる不祥事は、企業としての管理不在なのか、「確信犯」なのか、そうでないのか、正式な説明会見もなくいまだハッキリしていませんが、顧客離れがすすんだことは間違いないようです。
というのも、6月の前年比業界売上をみると、くら寿司が8.6%増、元気寿司6.6%増、カッパ・クリエイト1.5%増に対して、スシローは2.5%減。さらに7月は、コロナ第7波の影響下でくら寿司が1.3%増、元気寿司3.3%増、カッパ・クリエイト1.1%増と各社ギリギリ前年比増を確保する中、スシローだけが10.2%減と、唯一前年比で二ケタ減少に転じており、不祥事のダメージの大きさが分かります。
一連の不祥事は一過性のミスなのか?
最初の事件を受けておこなわれた同社の社外取締役と外部弁護士による調査報告では、「キャンペーン商品の欠品に対する顧客からのクレームは決して少なくなかったにも関わらず、かかる事態を放置した」とあり、この対応をみるに、どうも一連の不祥事は一過性のミスというよりも、企業文化に起因した根深いものなのではないか、とも思われるところです。
企業文化に問題ありと考えれば、一度犯した大きな過ちの直後に、全く同じような形でその直後に再び犯してしまう、という異常事態にも合点がいくと考えられるわけです。
また、報告書に、「おとり広告に関する十分な知識がなかった」との記載がある点にも注目です。
スシローは、回転寿司業界でトップを行く業界のリーダー企業です。このコメントが社内関係部署ヒアリングによるものであるならば、多くの消費者相手にビジネスを展開する業界トップ企業として、本件は単に不祥事を起こしたということだけでなく、その立場をわきまえていない経営姿勢という点から、大いに非難に値する事由であるといえるでしょう。
経営姿勢ということで申し上げれば、スシローは相次ぐ不祥事で世間を騒がせていながら、トップが一向に会見などの形で表に出て来ていないという問題もあります(トップを含めた一部役員の報酬返上のみリリース発表)。
一度の不祥事ならばまだしも、二度三度同じような問題を立て続けに起こしている以上、上場企業かつ業界トップランナーという立場からは、責任者が会見し謝罪、説明するのが常識的な対応であるのではないかと思うのです。
トップの姿勢が組織風土をつくる
一連の不祥事を生んだスシローの組織風土の乱れは、このようなトップの無責任な姿勢が反映されたものと考えたくもなります。トップが無責任な態度をとるなら、おのずと下の者も「上に倣(なら)え」状態になるものであり、そんな負の連鎖が悪い形で現場対応に現れてしまったのではないか。だとすれば、問題は非常に根深いと思うのです。
そもそもの始まりは、今をさかのぼること15年前に、当時のオーナー家の兄弟喧嘩とそれに起因した度重なる資本移動にありそうです。経営陣の内乱・紛争が組織にいい影響を与えるわけがなく、これが「百害あって一利なし」であるということは、とくに強調しておきます。
その後、経営は一族の手を離れ大株主が海外資本を含めたファンドの間で転々とする中、さらに同業との提携発表と、その解消などのドタバタもあって、上場した現在も大株主の上位に名を連ねるファンドと、雇われ経営者による業容拡大至上主義の落ち着きのない経営が続いているといえそうです。
スシローにおいては、利用者に多大な迷惑をかけ、深刻な顧客離れが生じるような不祥事が相次いだ以上、これを機に、一から組織風土を作り直すぐらいの覚悟を持って風土改革に取り組むことが必要でしょう。まずは早期にトップ自らによる、責任の所在の明確化と組織風土改革に向けた決意を内外に示すような会見の実施が望まれるところです。
一般の企業経営者においては、この一件から、組織風土に及ぼしているさまざまな影響の大きさを、自らにひるがえって強く認識してほしいと思います。
(大関暁夫)