年収1400万円の夫が、パートだが年収900万円も稼ぐ妻に対し、「グータラしないでフルタイムできちんと働き、もっと稼いでほしい」と望む投稿が炎上状態だ。
妻は本人にしかできない「特殊な仕事」を在宅でこなしているが、ハンモックで寝たり、ネットサーフィンをしたり、1日に実質2時間しか「仕事」をしない。夫からは怠けて見えて仕方がないが、妻自身は「私はだらけるのが好き。そのため最大限の努力をしている」とすれ違いだ。
この夫の投稿には「夫婦で年収2300万円の収入があれば十分!」「奥さんのメンタル面も考えてあげて!」と厳しい批判が相次いでいる。一方、夫婦には幼稚園児が2人おり、夫は「自分も家事育児を分担している」と反論。
人間はいくら収入があれば満足できるのか。夫婦の共働きのあり方も含めて、専門家に意見を聞いた。
「名もなき家事」のギャップが一番の問題点
<年収1400万円夫、年収900万円妻に「グータラ仕事しないで、もっと稼いで!」と投稿、炎上! 妻がダラけて見える理由は?...専門家に聞いた(1)>の続きです。
――論争の背景の1つには共稼ぎ夫婦の家事育児分担の問題があります。川上さんが研究顧問をされている働く女性の実態調査機関「しゅふJOB総研」で、今回のテーマにマッチした調査をしたことがありますか?
川上敬太郎さん「毎年、妻が夫の家事育児をどのように評価しているかを調査しています。
◇夫の家事・育児2021
昨年(2021年)の調査で、夫が積極的に取り組んでいる家事として最も多かったのが『ゴミ出し』でした。投稿者さんも、『ゴミ出し』は100%担当されているようですね。しかし一方で、夫がもっと積極的に取り組んだほうがよい家事として最も多かったのが『掃除や片付け』。次いで、『名もなき家事』だったのです」
――「名もなき家事」とは何ですか?
川上さん「日常のこまごまとした、固有名詞がない家事全般を指します。たとえばこんなコトがあります。
・夏物や冬物の服を入れ替える
・洗濯前に脱いだ衣類のポケットから中身を取り出す
・脱いだ後の洗濯物の袖を裏返す
・トイレットペーパーを交換する
・空になったティッシュ箱を捨てて交換する
・食事後の食器をキッチンに運びテーブルを拭く
・靴やスリッパを揃える
・残り少なくなったシャンプーを詰め替える
・カーテンや窓シャッターの開け閉めをする
じつは、こうした小さな家事の積み重ねが働く女性の一番の負担になっていることに気がつかない夫が多いのです」
――詳しく教えてください。
川上さん「調査のフリーコメント欄でも、女性たちからこんな声が寄せられました。
『手伝うという感覚が既に違うと思う。やってくれることはあるが、それ以上に妻の仕事を増やしていくので、いっそやらないほうが楽かもしれない』
『気が向いた時にしかやらないのに〈やってやった〉感が腹立つ。私は毎日やっていますけど?』
『家事をするより、一人で子供たちを連れて公園に行くとか、私に少しでも一人になれる時間を与えてほしい』
調査のたびに共通しているのは、『名もなき家事』における取り組みギャップが最も大きいことです。取り組みギャップとは、家事育児で夫が積極的に『取り組んだこと』の比率から『取り組んだ方が良いこと』の比率を引いた値を指します」
川上さん「図のグラフがそのギャップです。赤い色の『ゴミ出し』や『買い物』が、夫側が〈やってやった〉と思っている家事。青色の『名もなき家事』『子どもの宿題』『子どもの学校行事』『PTA』『自治会活動』などが、本当は妻が夫にもっとやってほしいことです。
夫が『名もなき家事』を見落としがちになる理由は、家事の全体像が見えていないことです。だから、少し家事を手伝っただけなのに、かなり家事をした気分になってしまうという勘違いが起こりやすくなります」
家事分担が「夫1:妻9」「夫10:妻0」は夫婦次第
――なるほど。しかし、投稿者は「ちゃんと家事育児を負担している」として、「朝子供の着替え50%」「ゴミ出し100%」などと克明に反論しています。この「家事・育児貢献度」をどう評価しますか。
川上さん「妻のほうがどう感じているかはわからないものの、投稿者さんは家事育児の負担割合を具体的に示す中で、『幼稚園の持ち物用意』や『ゴミまとめ』など、家事をしていない夫なら、認識から漏れてしまいそうな『名もなき家事』の範囲まで把握されている印象を受けます。
ただ、夫婦で家事育児をどのように行っていくかは、ご夫婦の数だけベストな態勢があります。投稿者さんは妻について『家事は70%』と書いているので、投稿者さんの感覚では家事の分担は夫3:妻7ということになります。
世の中には家事が得意な人もいれば、不得意な人もいます。育児についても同様です。また、『今は仕事に集中したい』とか、逆に『家庭を優先したい』など、ご夫婦それぞれの希望もあるはずです。家事育児の最適なバランスが、夫1:妻9という場合もあれば、夫10:妻0や夫5:妻5という場合もあると思います。
それが多いか少ないかは、当事者でしか判断できないことであり、ご夫婦によって判断が異なるものだと思います」
「妻の幸せ」か「自分の価値観」か、どちらが大事か?
――投稿者は妻の年収が900万円もあるのに、「家の建て替えや色々と物入りなので」と、妻にもっと働いてほしいと望んでいます。
回答者の多くが、夫婦合わせて年収2300万円もあるから十分ではないか、と夫を批判していますが、まずこの夫の要望に対してはどう思いますか。
川上さん「日々どのように生活し、どんな家に住み、どんな車に乗り、どれくらいの頻度で旅行に行き、老後はどのように過ごしたいかなど...人によってさまざまな生活設計、人生設計があります。2300万円は一般的な感覚からするとかなりの高収入だと思いますが、その金額で十分だと感じるかどうかについては、人それぞれ感覚が異なるのではないでしょうか」
――投稿者は、妻の働き方について「ネットサーフィンをしたり、ハンモックに寝そべったり、グータラしている。もっと真面目に働けるはず」と主張しています。一方、投稿内容を見ると、妻は「私はダラダラするのが好きだから、最大限努力している」と述べているようですね。
川上さん「投稿者さんは、妻の幸せを考えてそのように指摘しているのか、投稿者さん自身の価値観や考え方との違いから指摘しているのかによって異なると思います。
前者であれば、妻自身はそれで幸せだと感じている場合は不要な指摘だと思いますが、妻も何とか現状を変えたいと考えているのであれば、『もっと真面目に働いて稼いでほしい』と批判するスタンスではなく、どうするのが妻にとっての幸せにつながるのかを一緒に考えるスタンスが必要なのではないでしょうか。
一方、後者に当てはまるのであれば、妻には妻の価値観や考え方があることも踏まえて、まず目線合わせしないと、投稿者さんの価値観や考え方を一方的に妻に押しつけてしまうことになりかねないと思います」
「グータラしないでもっと働いてほしい」と望む夫の投稿について、川上さんのアドバイスも熱を帯びました――。<年収1400万円夫、年収900万円妻に「グータラ仕事しないで、もっと稼いで!」と投稿、炎上! 妻がダラけて見える理由は?...専門家に聞いた(3)>にまだまだ続きます。
(福田和郎)