現在の円安傾向が業績悪化の要因となると考えている企業が8割にのぼることがわかった。帝国データバンクが「円安による企業業績への影響」について調査。2022年8月15日に発表した。
日本銀行の黒田東彦総裁は、3月25日の衆議院財務金融委員会などで「円に対する信頼が失われたということではない」「円安が経済・物価にプラスとなる基本的な構図は変わっていない」との姿勢を示していたが、多くの企業が業績の足かせになっていると考えているようだ。業績にプラスになると考えている企業は1割にとどまった。
今年初めに1ドル=115円だった米ドル円相場は、米国の利上げと日銀の量的緩和の据え置き措置による日米の金利差を背景に、7月14日には一時1ドル=139円台を付け、急速に円安が進んだ。
円安で企業の6割超が業績に「マイナス」
円安にともなう企業業績への影響が懸念されている。調査で、円安が自社の業績にどのような影響があるか聞いたところ、「プラスになる」(「大いにプラス」「どちらかといえばプラス」の合計)と答えた企業は4.6%にとどまった。
一方、「マイナス」(「大いにマイナス」「どちらかといえばマイナス」の合計)は61.7%となり、6割を超える企業が、円安が自社の業績にマイナスの影響があると考えていた。
「どちらともいえない(プラスとマイナス両方で相殺)」は7.9%、「為替は業績には影響しない」は13.5%、「わからない」は12.3%だった。
業績へマイナス影響がある業種をみると、「繊維・繊維製品・服飾品卸売」の87.6%や「専門商品小売」の83.9%、「飲食料品・飼料製造」の83.3%、「飲食店」83.0%、「飲食料品卸売」82.4%などが8割を超えた。アパレル関連や飲食料品関連の業種で大きなマイナスの影響を与えている=下図参照。
企業からは、
「新型コロナ禍で収益性が悪化した得意先企業は、円安でコストアップした輸入製品を受け入れる余力がない」(婦人・子供服卸売、広島県)
「光熱費、電力料の価格上昇、円安による原材料費の価格上昇のダブルパンチで収益への圧迫が厳しい」(水産食料品製造、北海道)
といった声がある。
さらに「運輸・倉庫」も7割を超え、
「値上げは荷主企業自体も業績悪化しているため、容認されにくい。また燃料をはじめとする物価高で収益が悪化しており、打つ手がないのが現状」(一般貨物自動車運送、茨城県)
などの声が聞かれた。
マイナスの理由、「コスト負担増」が約8割
円安が自社の業績に「マイナス」の影響を与えると回答した企業にその理由を聞くと、「原材料価格の上昇でコスト負担が増えた」が79.2%と、最も高かった。また、「燃料・エネルギー価格の上昇でコスト負担が増えた」も72.6%と、原材料価格や燃料・エネルギー価格の上昇をあげる企業が突出していた。
次いで、38.7%の企業が「コストを販売・受注価格に転嫁できず収益が悪化した」ことを理由にあげ、不十分な価格転嫁が収益の悪化につながっていた。その一方で、「コストを販売価格に転嫁して売り上げ・受注が減った」(9.1%)が1割近くとなり、価格転嫁を進めたことによる売り上げの減少が響いている様子もうかがえる(いずれも、複数回答)。
企業からは、
「海外子会社への送金で、為替差損が発生している」(金型・同部品等製造、神奈川県)
「消費者心理の冷え込みで売り上げが減った」(医薬品製剤製造、東京都)
などの声が寄せられ、原油・原材料のコスト増や価格転嫁の影響に加えて、為替差損や消費マインドの低下なども下押し要因となっている。
一方、「プラス」の理由をみると、4社に1社(26.3%)が「海外での販売価格(現地通貨ベース)が下がり売り上げが増えた」と答えてトップ。次いで「海外事業の円ベース利益が増えた」(22.7%)、「取引先の業績が改善した」(20.5%)、「輸出競争力が高まり輸出が増えた」(20.3%)が続いた。
ただし、プラスの影響であげる理由は企業規模による差が大きく、「海外事業の円ベース利益が増えた」は「大企業」で44.6%だったが、「中小企業」は18.2%と、2.5 倍もの差がある。また「海外での販売価格が下がり売り上げが増えた」は、「大企業」(32.6%)が「中小企業」(25.0%)を7.6ポイント、「小規模企業」(18.1%)を14.5ポイント上回った。海外での販売や海外事業の円ベースの利益増は「大企業」を中心に表れている。
なお、調査は7月15 日~31日に実施。調査対象は全国2万5723社で、有効回答は1万 1503社(回答率44.7%)だった。