「コロナ前水準」を比較する統計にミスリードが...
一方、そもそも政府が「コロナ前の水準に回復した」とアピールするには、統計の取り方に問題があるのではと指摘するのは、第一生命経済研究所シニアエグゼクティブエコノミストの新家義貴氏だ。
新家氏のリポート「コロナ前水準回復とは言うものの... ~コロナ前ピーク対比マイナス2.7%で正常化には距離。4~6月期の実質GDIはマイナス~」(8月15日付)では、内閣府が実質GDPの比較の対象にした「コロナ前水準」の2019年10~12月期が経済のどん底状態だったこと示すグラフ「実質GDPの推移」(図表参照)を載せた。
これを見ると、2019年10~12月期の実質GDPは、前期比年率で11.3%ポイントも下がっているのだ。新家氏はこう説明する。
「日本における『コロナ前水準』の比較対象として2019年10~12月期を用いることは適当とは思えない。19年10~12月期は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動により前期比年率マイナス11.3%もの落ち込みとなっており、通常よりも水準が大幅に低い時期だった。このように極端に落ち込んだ特殊な時期を『コロナ前』の比較に用いることはミスリーディングだろう」
思えば2019年10月1日、2度にわたり延期されていた消費税率の引き上げが行われ、8%から10%に税率が引き上げられた。このため、増税前の9月までに消費者が商品購入を急ぎ、その反動から10月以降は一気に需要が落ち込んだのだ。
「実際、22年4~6月期の実質GDPの水準は、コロナ前ピークである19年4~6月期対比でマイナス2.7%、19年(暦年)平均対比でマイナス1.9%ポイントも下回っている。『コロナ前』としての比較対象としては、こちらのほうが適していると思われる。
結局のところ、『22年4~6月期にコロナ前水準を回復』という言葉は適当ではなく、実際には経済活動の正常化には未だ距離がある状況という認識のほうが妥当だろう」
新家氏は、統計の正確な対象として、「コロナ前」の水準を2019年4~6月期とすれば、今回発表した実質GDPは「コロナ前」に比べてマイナス2.7%であり、決して景気回復とは言えないと見る。