「国民の所得」の面から見ると、むしろ失速?
こうした説明を専門家やエコノミストたちはどう見ているのか。
日本経済新聞(8月15日付)「4~6月GDP年率2.2%増、3期連続プラス コロナ前回復」という記事につくThink欄の「ひと口解説」コーナーでは、第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏は、
「あくまで年率でプラス2.2%増えたのは、国内で生み出された付加価値の実質的な総額を示す国内総生産(GDP)です。私たちにとってより重要な国内で生み出された実質的な所得を示す実質GDI(国内総所得)で見ると、逆に年率マイナス1.2%減っています」
と指摘。つづいて、
「これは、国内で生み出された実質的な付加価値は増えたのに、輸入物価の上昇により所得が海外に流出したことから、実質的な所得は逆に減っていることを意味します。つまり、交易損失が計上される実質GDIと実質GNI(国民総所得)はいずれもマイナス成長ですので、交易条件の悪化によりヘッドラインのプラス成長ほど国内の実質所得は増えていないということには注意が必要です」
と、「国民の所得」の面で見れば、日本経済の失速は明らかだと見る。
補足して説明すると、「GDP(国内総生産)」は、国内で生産されたモノやサービスの付加価値の合計額である。「国内」のため、日本企業が海外工場などで生産したモノやサービスの付加価値は含まない。一方、「GDI(国内総所得)」は国内に限らず、日本企業の海外工場などの所得も含んでいる。
このような交易条件を含む経済指標として、「GDI」のほかに、「GNI(国民総所得)」がある。2つの違いは、「GDI」は国内に落ちる所得を表し、「GNI」は「国民」を対象としているため、日本国民が海外で得た所得も含む点だ。
いずれにしろ、日本企業が海外市場に活路を見いだしている現在、海外から得た利益を日本国内に還流させるグローバルな視点から日本経済を分析するには、GDPよりGDIやGNIを重視して国民の所得を増やすべき――こういった考え方が最近、力を持ち始めている。
同欄では、日本経済新聞社特任編集委員の滝田洋一記者もGNI(国民総所得)がマイナスになっている点を問題視した。
「国内の景気がようやく持ち直してきたのに、資源・エネルギー価格の上昇でいいところを持っていかれた。そんな内容の4~6月期でした。(中略)4~6月期の実質GNI(国民総所得)は前期比0.1%減(前期比年率0.6%減)。実質GDP(国内総生産)が0.5%増(前期比年率2.2%増)、海外からの実質純所得が前期比0.2%増なのに、資源価格の高騰で交易条件が前期比0.8%減となったからです。生産が増えても所得が増えない。事態の打開にはエネルギー政策の出番です」
と、岸田文雄政権のエネルギー政策に期待した。
ヤフーニュースのヤフコメ欄では、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主席研究員の小林真一郎氏が、
「決して弱い内容ではありませんが、それでも先行きに懸念を残す結果となりました。感染一巡により、宿泊・飲食サービス、旅客輸送、レジャーなどへの需要が高まって個人消費が増加したことが全体を押し上げました。しかし、価格が上昇している耐久財(白物家電など)や非耐久消費財(食料、エネルギーなど)は小幅増加にとどまっており、徐々に物価上昇による悪影響が出始めています」
と、今後の物価上昇に懸念を示した。そのうえで、
「感染再拡大を受けて家計が自主的に行動を制限するなどにより、回復の勢いは強まりそうにありません。政策対応としては、物価高対策、経済対策の着実な実行であり、いずれは需要喚起策の再開、外国人観光客の受け入れ緩和などとともに、米欧並みにコロナ規制を緩和するタイミングの検討が求められます」
と、物価高対策とともに特にインバウンドの拡大を求めた。