日産自動車が2022年6月に発売した軽の電気自動車(EV)「サクラ」の販売動向が注目されている。
日本自動車販売協会連合会(自販連)と全国軽自動車協会連合会(全軽自協)が8月4日に発表した7月の車名別新車販売によると、サクラは3319台で軽部門13位、全体では26位だった。
これは6月中旬時点で1万台余の先行受注を抱えていた人気から考えると、物足りない数字と感じる。
販売台数は累計5172台...納車遅れは、半導体不足など影響か
日産は5月20日にサクラを発表し、6月16日に販売を開始した。日産は6月13日までにサクラの先行受注が1万1429台に達した、と発表していた。
もっとも、7月の実際の販売は3319台で、6月を合わせても累計5172台にとどまった。先行受注に対し、半導体不足などで生産と納車が間に合わないのが現実だろう。
サクラは7月、国内のEVとしては、これまで首位だった日産リーフの1546台を抑え、堂々の1位となった。
しかし、前述のように7月のサクラの販売台数(3319台)は、軽で1位のホンダN-BOXの1万7105台、2位のダイハツムーヴの8673台、3位のスズキスペーシアの8485台などには遠く及ばない。
◆補助金によって130万円台に
日産が「軽のゲームチェンジャー」を目指すサクラのメーカー希望小売価格は239万円台と294万円台で、「軽」としては高額だ。ところが、国の補助金55万円、エコカー減税1万5600円に加え、東京都の場合、さらに45万円の補助金があり、優遇策の合計は101万円5600円となる。
これは実質的な値引きで、130万円台でサクラが買える計算となる。これなら、ガソリンエンジンの「軽」と負担は変わらない。
日産は7月28日、2022年度第1四半期決算発表でサクラの受注台数が累計2万3000台となったことを明かにした。アシュワニ・グプタ最高執行責任者(COO)は「サクラが日本におけるEVの普及を加速させてくれると確信している。販売店もお客さまの反応に非常に強い手応えを感じている」と、自信を見せた。
サクラのリチウムイオン電池の容量は20キロワット時で、満充電当たりの航続距離(WLTCモード)は最大180キロと、日産リーフの半分以下だ。
それでも、日産サクラがわずか2か月余で2万台を超える受注を抱えるほど人気なのは、補助金込みの実質価格にあるのは間違いない。
補助金の予算約430億円、7月末で過半を消化
ところが、ここに来て、サクラを含むEVの販売動向には暗雲が垂れ込めている。
EVを購入する際、政府が支給する補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進等補助金)の2022年度の受け付けが、10月末にも終了する見通しとなったからだ。
経済産業省と一般社団法人の次世代自動車振興センターは8月2日、補助金の予算残高(7月25日時点)が約177億円となり、10月末をめどに受け付けを終了する見込みだと発表した。
この補助金は2021年度補正予算の繰り越し分と22年度当初予算を合わせ、約430億円を確保していた。
ところが6月に日産がサクラ、三菱自動車が同じく軽EVで姉妹車の「eKクロスEV」を発売したことで受注が殺到し、補助金の予算額の過半を消化したようだ。
このまま補助金予算の残高が底をつき、10月末で終了となれば、サクラを含むEV販売への影響は甚大だ。日産は全国の系列販売店に補助金が支給されない可能性があると、購入希望者に説明するよう通知したようだ。
補正予算での積み増しは? 「脱炭素」へ問われる政権の本気度
EVの販売が好調なのは、脱炭素化を進める政府にとって朗報だが、補正予算を組んでEV購入の補助金を積み増すとなれば、赤字国債の発行は避けられない。
一方では、原油価格の高騰で高止まりするガソリン価格を抑えるための補助金も支給している。ガソリンへの補助金を続けるのに、EV補助金をやめてしまっては、脱炭素へ向けた岸田政権の政策誘導の本気度が問われるだろう。
EVに関しては、トヨタ自動車とSUBARU(スバル)も共同開発の新型車を発売したが、予期せぬ初期トラブルの発生で販売を見合わせている。
政府と自治体の補助金はEV販売動向のカギを握るだけに、今後の政府の対応を自動車メーカーは注視している。
いまのところ、メディアや政財界の注目度は低く、この問題の存在を知らない消費者も多いようだ。秋口になってEV補助金の終了が目前に迫るにつれ、与野党を巻き込んだ議論になるのは間違いない。(ジャーナリスト 岩城諒)